「へへ、来ちゃいました。」
「暇人め。」
呆れ顔で私を見る彼。
それもそのはず、昨日の今日でまたあの神社に顔を出しているのだから。
「そういえば、私、
貴方の名前知らないんですけど・・・。」
「・・・好きに呼べ。」
「じゃあ、狐さん!」
「狐に”さん”づけするな気持ち悪い!」
「えぇっ・・・」
「じゃあお前は人間さんと呼ばれたいか?」
「いや、私は朱里ですもん。
しかも狐さんは私を小娘としか呼んでませんけどね?」
「あぁっ、うるさい小娘め。
もう狐さんでいい。・・・・朱里。」
「っ、・・・はい!」
少し頬を染めながら私の名前を呼ぶ彼に
不思議と心が温かくなった。
パタパタ、とどこからか出した扇子で顔を扇ぐ彼。
その仕草に少し笑ってしまう。
「・・・朱里。」
「はい、なんですか?」
「俺が怖くないのか。」
「え?」
「俺は人間じゃないのに。
・・・怖がらなくても、面白がって他の人間に告げ口をするものではないのか。」
そう言いながら、扇子で扇ぐのを止める彼。
どこか傷ついたような金色の目が私を見る。
「怖くないよ、だって、貴方は優しいじゃない。
私だけの秘密だもん、誰にもいわないよ。」
「・・・優しい、か。
人間にそんなことを言われたのは、何百年ぶりだろうか。」
「え、狐さんそんなおじいちゃんなのっ?!」
「やかましい!」
シャーッと威嚇する狐さん。
いや、全然怖くないです。
むしろ可愛いです。
「笑うな。」と狐さんのチョップが私の頭に落ちる。
手加減しましょう、仮にも女の子なんです、私。
そういうと、「小娘ごときが。」と馬鹿にしたように笑った。
その笑顔にまた胸が熱くなる。
あぁ、そうか。私は狐さんが好きなのかもしれない。
狐に恋するなんて、バカみたい?
でも、好きなものは仕方ないじゃないですか。
彼にとって、私はただの人間の小娘なんだろうけど。
「ねぇ、また会いに来てもいいですか?」
「・・・勝手にしろ。」
「じゃあ、また来ますね!」
そう言って長い階段を下りる。
この長い階段を辛く感じないのも、
狐さんのおかげ・・・なんて、ね。