「朱里ちゃんとはどういった関係なの?悪いけど、他人に連れて行かれるのを見てるわけには・・・。」
そうおばさんが言いかけて
「ね?」と私に聞いてくる。
「あ、えっと・・・」
私が言葉に詰まっていると、狐さんがポン、と私の頭に手を置いた。
その行動に不意に硬直してしまう。
「私・・・俺は、」
いつもの口調に戻った狐さんが言葉を続ける。
「この子の親戚じゃないし、ただの知り合いに分類されるんだろうけど、俺は朱里に温もりを教えてもらったから。だから、次は俺が、温もりをあげたい。でも、これは俺の勝手な感情だから。最終判断は朱里に決めてもらっていい。」
「っ、」
見上げると、微笑まれる。
「お前は一人じゃないんだよ。」
そう言って置いた手で私の頭を撫でる。
その手が、優しさが、暖かかった。


「朱里ちゃん・・・?」
「え、あ、・・・。」
気づけば私の目から涙が溢れていた。
「あれ・・・、何で、今更・・・。」
急いでそれを拭うけど、涙は止まることを知らなくて、次から次へと頬を伝っていく。
「私、お母さんが亡くなったのに・・・泣けなくて。ずっとずっと、泣けなくて。親不孝者だって思ってて・・・、それでっ、」
ふわっとした感覚がして目を見開く。
後ろ頭にまわった狐さんの手が私をひきよせ、自分の肩に押し付けていた。
「違う。」と狐さんが呟くように言う。
「朱里は母親の死を、受け入れられてなかっただけだよ。大切で、すぐそこにある温もりだったからこそ、失う感覚に気付けずに、涙がでなかっただけ。だから、今は、やっと泣けた今は。思いっきり泣いていい。」
淡々と語りかけるようなそれに、糸がプツリときれたような気がした。
それと同時にまた涙が止まらなくなる。
声をあげて泣き続ける私のそばで、狐さんはずっと頭を撫でていてくれた。


私が泣きやむと、
狐さんが私の頭から手を離した。
「朱里ちゃん。」
と呼ばれて振り返ると、
そこには柔らかい表情のおばさんがいて。
「その人に、朱里ちゃんを任せようと思う。おばさんじゃ、朱里ちゃんに涙を流させてあげることはできないからね。」
「おばさん・・・」
「でも、いつでもいいから。
何か困ったことや、相談したいことがあったら、いつでも訪ねておいで。待ってるから、ね?」
「・・・ありがとうございます。」
そういって頬を緩める私を見て、おばさんも笑った。
おばさんの目の端にうっすら涙が浮かんでいた。