少しして、お母さんのお葬式が開かれた。
私に身内はお母さんしかいなかったので、親戚の席に座るのは私一人だった。
そんな私を見て、同級生や先輩、お母さんの同僚や友達、近所の人たちが声をかけに来てくれた。
「朱里ちゃん、これから色々大変だろうけど、・・・頑張るんだよ。」
「はい、ありがとうございます。」
同じやり取りを淡々と繰り返していた。
しばらくして、あの家事の日に道に座り込んでしまった私のもとに来て声をかけてくれ、状況を伝えてくれた隣の部屋に住むおばさんが来た。
「朱里ちゃん、もし、良かったら。」
「え・・?」
「どこにも行くところがないんなら、
私のうちにおいで。
朱里ちゃんなら、主人も大歓迎だから。」
「おばさん・・・」
その言葉に、本当に私は恵まれた環境にいたんだなと思い知らされた。
これから生きていく自信はない。
一人で暮らしていくすべもない。
甘えるしか、ないのかもしれない。
心の中で、そうするしかない、甘えてしまいたい自分の弱さに、小ささに気付く。
「あの、おばさん・・・私・・・」
そう言いかけて顔をあげた私。
「あの、」
おばさんの隣に、
見慣れた姿があった。
けれどその姿を見て、
一瞬私の中で時間が止まる錯覚に落ちる。
息が、止まったような気がした。
「誰ですか?」
おばさんが素朴に質問をする。
「私は、こういうものです。」
そういって名刺のようなものを渡される。
そこには”神崎隼人”と書かれてあった。
彼が私を見て微笑む。
「私が、この子を引き取ります。」
頬に赤い模様も入っていないし、
耳も尻尾も生えていないけど、
その人は間違いなく、狐さんだった。