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今から何十年か前。
朱里のように、この森に迷い込んだ人間の少女がいた。
「何をしている。」
最初はただの好奇心だった。
その時初めて人間を見た俺は、
ただ単に、何をしているのかわからなかった。
でも、振り返った少女は違った。
俺を見て、酷く怯えた表情をした。
後ろに生えた尻尾。
人間にはあり得ない目の色。
「化け物」そう言って少女は逃げた。
「違う、俺は怖くなんかないよ。」
そう告げたくて、そう伝えたくて、
俺は少女の背中を追った。
「来ないで、化け物!怖い!」
そう言って泣きながら走る彼女を、
ただただ俺は追っていた。
その行為が少女の恐怖心を、
さらに逆立てているとも、
その時の俺は知る由もなかった。
そして____
「きゃっ、」
「あっ、」
ドサッ、と鈍い音が耳障りに響いた。
彼女の逃げた先は崖で。
そこへ走って行った彼女は、
その音とともに・・・。
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「あのっ、私もう帰らなきゃ・・・。」
「・・・そうか、
人間の小娘は帰る時間か。」
今度こそは引き留めてはならない。
もう、追いかけてはいけない。
また会いたいと願ってはならない。
そう思うと、どこか胸が苦しくなった。
「また、会いに来てもいいですか。」
「っ、」
その言葉を聞いた瞬間、
また身体に熱がこもった。
気づいた時には俺は笑っていて、
軽くうなづいていた。
それをみた嬉しそうな彼女の笑顔が、今も忘れられない、その夏の1ページ目だった。