七月下旬。
蝉の鳴き声も本格的になり、
もう風物詩とは言えないレベルで煩い。
「はぁ、っ・・・狐さーん?」
その日も神社に訪れていた私は、
狐さんを探していた。
神社には誰もいなくて、
仕方なく、大木の階段を上っている始末。
相変わらず長い。
「・・・おい、朱里とやら。」
「っ・・・!」
階段の上の方から名前を呼ばれて見上げると、
そこにいたのはあの日の天狗だった。
思わず後ずさりしてしまう。
が、そこに地面はなく、後ろに身体が反る。
「きゃーーーーーっ!?」
「っ・・・バカ!!」
グッと抱き寄せられて、
抱きとめられる。
思わぬ近距離に思わず身体が硬直する。
「もう何もしない。
あいつの獲物を横取りしても面倒なだけだからな。」
「そ、そんなこといって食べるんですかっ、」
「はぁ?」
「ひぃっ!」
抱きとめられていた身体が離れ、
両頬を引っ張られる。
「いでででででっ・・・!」
「色気もない小娘が生意気な口を聞きおって・・・。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ったく。」
呆れたような顔で両頬から手を離した天狗は、
「で、何しにきた。」と問う。
「狐さんが神社にいなくて。」
「あぁ、あいつなら盆祭りの準備で外出中だ。」
「え、そうなんですか・・・。」
じゃあ今日は会えないのか。
・・・なんか寂しいなぁ。
ポン、と不意に頭に手が置かれる。
「そんな寂しそうな顔するな。」
「へ?」
「アホ狐じゃないが、俺は暇だ。」
「え、っと・・・?」
「あぁ、頭が悪い娘め。
俺が相手してやるって言ってるんだ。」
「いえ、結構です。」
「おい・・・。」
なんだ、天狗もいいとこあるじゃないか。
そういうとまた怒られそうなので、
今は黙っておくことにした。