その日も転校生が来るとか誰かが転校するとかいう
イベント的な事は起こらず、
何だかありきたりな日だった。

放課後に期待してみたものの、

帰り道を一人でのんびり歩いている私に
あいつが話しかけてくるのも残念ながらいつも通りだった。

はあ、

とため息をついて

「…今日は何?」


そこに居るのが当たり前のような態度で
悠々と私の右側を歩く河野に尋ねる。

「別に?
いつも言ってんだろ
用がある訳じゃないってさー」

何処か間延びしたふざけた口調がトレードマーク。


じゃあ話しかけんなよ

って言いかけてやめる。

こいつがぼっちだからとかじゃないけど。


こいつはぼっちじゃないし、
私と帰っている途中でもそこらの男子から
帰ろうと誘われている人気者だ。

何を好き好んでこんなのと帰っているのやら
って本人が思うくらいに。

だから、私がそれを言わなかったのは
例え不本意だったとしても
こいつと帰るのが楽しくなってきているから。

…さしずめこいつがエンターテイナーだということだろう。

「…うっわムカつく。」

隣を歩くあいつに聞こえない位の小さな声で言った。






そして、あいつとの帰り道の終着点である分かれ道の前で

「じゃあなー」

といってあっさりと歩いていってしまうあいつの
小さくなった背中に向かって

「……また明日ーッ!!」

と叫ぶ。

一瞬で立ち止まって
驚いた顔でぎこちなく振り向いたあいつに笑いながら、
私も家に向かって歩きだした。

私が互いの姿が棒のようにしか見えなくなるような所まで歩くと、

「明日も用はないけど、一緒に帰るからなぁっ!!」

という声が響いて不覚にもドキッとしてしまった。



そして、落ち着いてからゆっくりと振り向いて
何度も頷いた。


今まで不快でしかなかったあいつのちょっかいに
少しだけ好きなところを見つけた瞬間だった。