「………‼︎…ミ?…タツミ、タツミ‼︎」
「…ぅんー?」
「起きてよ!タツミー」
「うぅーん。…んぁ、コウ?」
「もう20時だよ‼︎皆お腹空かしてるよー」
「えっ⁉︎もう20時⁉︎」
気付くともう時計の針は20時を指している。リビングには私とコウとミオンの3人しか居ない。
私が休憩し始めたのは18時半くらいだったから…1時間半も寝てたんだ。
それにしてもなんだか体が重い。頭も痛いしクラクラする。
「タツミ、ご飯もう炊けてるよ?」
「あ、うん。ゴメンね今作るよ…」
立ち上がった途端目の前が真っ暗になる。あ、ダメだ…
そこで意識は途切れた。
ふわふわする意識。小刻みに揺れるこの感じ。誰か、私を背負って歩いてるの?
「んっ…」
「あ。起きた?タツミ、熱あるでしょ?顔色悪いし喋り方がつぼみの時に戻ってる。僕の呼び方も。それにいつもは昼寝なんてしないでしょ。」
廊下を歩きながらコウが話しかける。
コウは私をそっと横抱きにしている。その後ろをミオンがちょこちょこと着いてきてる。
「あれ?団長サンどうしたんですか?」
「あぁ。ちょっとタツミ、熱出しちゃって…」
「えぇ⁉︎団長サン熱あるんですか⁈なら、私がご飯作ります、団長サンしっかり休んでてください‼︎」
トワがそう言ってトタトタと台所へ消える。
「団長、熱あるのか?」
「タツミさん、大丈夫?」
ヒビヤとヒナも出てくる。
「ミオン、体温計の場所教えたよね?僕はタツミを部屋に運ぶから濡らしたタオルと体温計持って来てくれる?
ヒナちゃんはミオンに場所聞いて冷えピタを何枚か持って来て。
ヒビヤくんは桶に水入れて持って来てくれる?」
「うん‼︎」
「わかった」
「任せろ」
3人がそれぞれのものを取りに行くのを見届けてからコウは私を見る。
「大丈夫?つぼみ」
「…私、熱無い」
「嘘。だっておでここんなに熱い。それにさっき倒れちゃったでしょ」
ごちん、とコウは私のおでこに自分のおでこを引っ付ける。
「部屋帰るよ。僕に捕まって」
「ヤ。歩けるもん」
「こーいう時くらい甘えなさい」
今気づいたけどこれってまさかお姫様抱っこ?
「うわぁ、ちょっ、お、おろして‼︎」
「わぁぁ、いきなり暴れないでよ‼︎熱上がるよ⁈」
そんなことを無視して暴れてるとズキン、と頭が痛くなる。
「うっ……」
「もー。だから言ったのに。大丈夫?もうすぐ部屋だよ」
「…歩けるから、降ろせ」
「ダァメ。ほら部屋着いたよ。ドア開けて」
コウは壊れものを扱うようにそっとベットに降ろす。
「ハリー、体温計と濡れタオル持って来たよ‼︎」
「ありがとう、ミオン」
「ハリーさん、冷えピタです‼︎」
「助かったよありがとう」
「ほら」
「お疲れ様、ありがとうね」
ひとりひとりにお礼を言いながら受け取るコウ。そして私の方を心配そうに見ながら出て行った3人。
「ほらつぼみ。体温計ミオンが持って来てくれたから熱測ろう」
…今現在の私の体温推定38度。
ダメだ測るとコウに心配かけちゃう
「ヤ。測らない」
「ターツーミー‼︎」
「ヤ‼︎」
「測らないなら僕もう知らない‼︎」
「えっ…ヤダ、コウまで私を見捨てないで‼︎測る…測るから…」
「…大丈夫。見捨てないよ?だからほら、熱測って」
「うん」
脇に挟んでジッと待つ。
ハリーはその間に俺に冷えピタを貼り汗を拭いていく。
ピピッ、という電子音。体温計を脇から出して体温を見る。
「…」
「ほらつぼみ。見せて」
「…37度」
「嘘でしょ?見せてよ」
「ダメ」
ギュ、と握り締めても簡単に取られる。
『また熱なんか出して…自分でなんとかしなさい!』
ギュッと目を瞑る。違う、お母さんじゃない…
「38度7分…全然違うじゃん‼︎ほらもう寝よ?」
「私、大丈夫だもん」
「今日無理して家事したら悪化するよ。明日も熱出てたら皆余計に心配するよ?今日はもう寝て早く治そう?ね?」
皆に心配かけたくないし…
「ね、寝る」
「うん。僕お粥作ってくるよ。お薬飲んでから寝ようね」
「待って。ハリー…」
「ん?」
「お粥の作り方…知ってるの?」
「…」
「お鍋とお玉の場所…わかる?」
「…」
黙って顔を背けるハリー。
「お鍋とお玉の場所も知らないしお粥の作り方も知らないのにどうやって作るの?」
「ぅ、ぁぅ…み、ミオーン‼︎ヘルプミー‼︎」
「なぁに?」
「お粥作って…」
「へ?おか…ゆ?」
「うん」
「…と、トワちゃぁん(泣)」
「はーい?なんですかミオンサン…ってなんで泣きかけなんですか⁉︎ハリーサンまで‼︎」
「トワちゃん、お粥の作り方教えてぇ」
「トワちゃぁん、お鍋とお玉の場所教えてぇ」
「待って⁉︎ミオンサンの質問はともかくハリーサンの質問おかしくないですか⁈ハリーサン私より長くここに住んでますよね⁉︎私来てまだ数時間しか経ってないんですけど‼︎」
「だって〜さっき料理してたじゃん」
「しましたけどー」
「トワちゃん…教えてくれないの?」
「ミオンサンには教えます。しかし!
ハリーサンには教えません。団長サン看ててください」
「はーい☆」
「ほらミオンサン、行きますよ」
「うんっ♪」
「…タツミ大丈夫?」
「あぁ…大丈夫だ」
実はさっきより頭痛が酷くなってる。
喋るのもやっとだ。
「…熱、上がってるかな?」
「えっ…?」
「頭痛、酷くなってるでしょ?」
「団長サーン、お粥できましたよ。食べれますか?」
「タツミ、このお粥さんね、私が作ったの!」
「そうか。ミオン、ありがとう。
トワ、そこに置いといてくれ。食べておく。すまんな」
「風邪が治るまでいつまででもご飯作りますからね」
2人が出て行きハリーと2人。
「はい、つぼみ。あーん」
「はっ⁉︎あーん⁈つか名前で呼ぶな‼︎」
「じゃぁタツミ。あーん」
「じ、自分で食べれる‼︎」
「じゃぁ自力で体起こしてご覧よ」
「ふん、それくらいできる」
体に力を入れて起こす。
「あ、れ?」
うまく力が入らない。まさか熱のせい…?
「ほら、体も満足に起こせないんじゃダメじゃん。喋るのもしんどいんでしょ?」
ハリーはスプーンを置いて俺の体を起こす。
…こいつには全てお見通しってわけか。
「あーん」
「えっ⁉︎」
「お前が食べさせてくれるんだろ?」
「う、うん…」
ふーふー、と冷ましてから俺の口にお粥を入れる。
美味しい。けど吐き気が…
「…」
「お腹いっぱい?」
「…あぁ」
「じゃぁ残りは僕の晩御飯♪
はい、お薬飲も?
ってどうやって飲ませよう…?」
「貸せ。自分で飲む」
「うん…」
コップを受け取る。が予想以上に重い。
ガッシャーン‼︎
「あっ…」
「タツミ⁉︎大丈夫⁈怪我ない⁉︎」
「俺は大丈夫だが…」
「ならよかった。」
「タツミさん?何かあったんですか…?」
「凄い音したけど…」
「タツミ?大丈夫…?」
「ハリーサン、団長サンに今重たいもの持たしちゃダメですよ⁉︎熱がある時って力が入んないんですから‼︎」
「…はい…すみません」
ハリーがトワに怒られてる隙に重い体に鞭を振るいベットから降りコップの破片を拾う。
「タツミさん、手伝いましょうか?」
「ヒナ、お前触るな。手ぇ切るぞ」
「ヒビヤの言う通りだ。大丈夫だからミオンと一緒に部屋戻ってな」
「あっ、団長サン‼︎何してるんですか⁈」
「何って破片拾い…痛っ⁉︎」
「つぼみ⁉︎」
あれ、ガラスってもっと奥にあるはずなのに。
ガラスで切った人差し指からは血が大量に出てくる。
結構深く切ったみたいだ。
「タツミ、指貸して」
集めたガラスの破片を怪我して無い方の手でベットの近くの机に置きながらハリーに指を見せるとパクッと指を咥えた。
「はっ…」
「はい、応急処置完了」
近くにあった絆創膏を貼ってくれた。
トワはその間に散らかった破片を箒で掃いてたみたいだ。破片が無い。
「団長サン‼︎今すぐベットに入ってください‼︎距離感掴めてないでしょう‼︎」
「えぇ⁉︎それ、熱結構あるんじゃない⁈つぼみ熱測ろうベットに入ろう薬飲んで寝よ⁈」
「ハリーサン落ち着いてください。看病変わりましょうか?」
「うぅん、大丈夫だよっ‼︎トワちゃんご飯食べた?」
「勝手ながら材料を使わせていただきました」
「オッケー。」
「じゃぁ私戻って皆のとこに居ますね。」
「あ、ねぇトワちゃん‼︎」
「はい?」
「薬…どうやって飲ませればいいかなぁ?」
「あぁ…こうやって飲ませるんですよ」
ヒソヒソと話し出すトワ達。
そんなことより怠い。頭痛い、しんどい
「じゃ、ハリーサン。看病よろしくです‼︎」
トワはハリーによくわからん合図を送り部屋から出て行った。
「じゃ、じゃぁタツミ…薬飲もうか」
「自分で飲む」
「さっきコップ落としたじゃん!ダメだよっ‼︎」
「じゃぁどうやって飲むんだよ」
「ぅ…それ、それはぁ…ぅうー」
人差し指をチョンチョンと引っ付けながらハリーは目を逸らす。
「トワちゃーん(泣)」
「もーまたですか‼︎次はなんですか?」
「ホントにあれじゃなきゃダメ?それ以外に方法あるでしょっ⁉︎」
「ナ・イ・です☆」
「そんなぁー」
ガックリと項垂れるハリーとケタケタ笑うトワ。
「殴られるかもだけどやるしかないよねぇ…はぁ」
ハリーはコップと薬を持つ。
「さぁハリーサン、早く‼︎」
「トワちゃん出てって⁉︎携帯構えないで⁈」
「イイじゃないですか〜携帯はただカメラを起動さしてるだけです‼︎」
「それをやめてよぉぉお‼︎」
無理やりトワを追い出してハリーは深呼吸をした。
「た、タツミ…薬…飲まなきゃだよね?」
「?」
「殴らないでね…」
「ぉ、おう…」
ハリーは何故か水と飲み薬を自分の口に入れる。
「ハリー?…んぅ⁈」
ハリーはそのまま唇を俺に押し付ける。
口を何か生暖かいものでこじ開けられる。
「んっ‼︎」
口に流れ込んで来たのは水と…薬?
俺が飲み込んだのを確認してからハリーは唇を離す。が離しかけていた唇をまた押し付けた。
「んっ⁉︎はっ…りー…」
ハリーの胸板を叩いていた力の抜けた手を掴まれ抵抗ができなくなる。
「くっ…るし…」
酸素を求めて開いた口から何か生暖かいものが俺の口に割り込んでくる。
これはさっき口をこじ開けたもの?
…ハリーの舌?
「やっ‼︎はりぃ…苦し…」
ハリーの舌が俺の歯列をなぞり暴れる。
…おとう、さん…?
「ぃやっ‼︎‼︎」
熱のせいで力の入らない足に精一杯の力を入れて蹴り飛ばす。
「ぐふっ‼︎」
「ぁっ…ごめ…なさぃ…お父さん…許しっ…」
「…つぼみ?」
「いやぁ‼︎やめてっこっちに来ないで!」
涙で霞む視界の先、お父さんが笑いながらこっちに来る。
それを阻止するかのように近くにあるものを投げる。
枕、薬のゴミ、布団、さっき集めたガラスの破片、コップ…
ガッシャン‼︎‼︎‼︎
「はっ…」
ガラスの音で我に返る。
そうだ、今目の前に居るのはお父さんじゃない…
お父さんは、死んだんだ
涙を拭い目の前に居る人物を見る。