昼休みになって、由香と皐月で
お弁当を食べていると…、
「雪菜ちゃーーん。」
誰かが私を呼んだ。
皆、名前を呼んだ主をガン見し、
私とその人を交互に見る。
聞き覚えのある声。
(はぁ…きっと、)
「桑田君…。」
目を合わせると、桑田君は
私の方へ駆け寄った。
「雪菜ちゃんっ。俺も
一緒に食べたいっ。」
可愛い笑顔でそう言われた私は、
仕方なくおかずを少しわけてあげた。
「うまいっ!!」
笑顔で食レポしてくる桑田君の
目はキラキラしていて、本当に
美味しそうに見えた。
「全部、食べてもいいよ。
私、お腹いっぱいだから。」
「えっ?!いいのっ?!ありがとっ。」
パクパク、スムーズに私の
お弁当の中身を食べる桑田君は
本当にチャラい身なりには
似合わない可愛らし男の子に見えた。
ペロリとすぐ完食してしまった
桑田君は爽やか笑顔で
「ごちそうさま」と一言。
「ねぇ、桑田君。ちょっと
一緒に来てほしいんだけど…。」
そうだよね。
可愛いなって思って流されて、
結局言わずじまいになるのは
ダメだもんね。
言うって決めたんだから。
言わなきゃ。
「2人ともちょっとごめんっ。
桑田君に用があるから。」
私は2人に謝って、桑田君
の手を引っ張って教室を出た。
***
桑田君を連れてきた場所は屋上。
寒い風が吹き付けるけど
そんなのは関係ない。
「桑田君。私、桑田君に
言いたい事があるの。」
「何?」
「私、桑田君とは、「別れないよ。」
え…?
今、別れないって…。
「俺、雪菜ちゃんとは別れないよ。
思ったより俺我儘で。
こんなに好きになったの雪菜ちゃんが
初めて何だよ。だから絶対叶えたいし
この出会い、大事にしたいんだ。」
こんなの反則だよ…。
そんな悲しい顔されたら
嫌でも断れない…。
私は、拓也さんが好きなのに…。
あんな顔してあんな事言われたら
断れないよ…。
「……分かった。」
ちょっとだけならって気持ちで
分かった何て言っちゃって…。
私って馬鹿みたい。
「良かった…。」
ほら。あんな可愛らしい笑顔…。
ほんとやわらかいんだもん…。
「雪菜ちゃん…。」
桑田君は安心した声で囁いて
私を抱き締めた。
「俺、雪菜ちゃんの事大事にする。」
あぁ…、もう戻れない。
大事にするって言ってた。
桑田君は優しいから、きっと
私を大事にするよ。
私の恋は、もう終わっちゃうの?
拓也さんとは付き合えない…?
やだ…拓也さんと一緒がいい…。
涙が、悲しみの涙が
どんどん溢れてくる。
(拓也さん……。)
拓也さんの名前を心の中で呼んだ
時、涙がこぼれ落ちた。
その涙はしょっぱくて、
胸が傷んだ。
(もう…私の恋は…叶わない…。)
これから私は、偽りの恋愛を
しなきゃならないの…かな…。
はぁ…。
悲しいの域を通り越した気がする。
何か、いろいろとうまくいかなくて
どうでもよくなってきちゃった…。
(誰も…助けてくれないよね…。)
偽りの恋愛には、愛なんて
存在しないから…。
ちゃんと私は桑田君を
好きになれるかな…。