……――次の日。






(…朝、かな…?)





起きると、自分は病室にいて、
事故にあったのだという事を
嫌でも再確認させられる。




(今日も見たなぁ…。)




最近よく見る夢がある。


それは、幼い頃の私で、
ある男の子と一緒にいるの。

男の子の顔は、逆光でよく
分からない。

私とその男の子は両思い見たいで。


私は、その男の子の事を何とか君って
呼んでるんだけど、その名前も
よく分からない…。




でも、その夢を見るたびに、懐かしい
気分になって、それで安心できるって
言うか…なんというか…。




とにかく、嫌な気分がしないんだよね。
むしろ、ずっと見ていたいって思う。




(う~ん……。)




考え込んでいると、病室の
扉が開けられた。






「今藤さーん。熱測ってくださーい。」



看護師さんだ。




「はーい。」



看護師さんから体温計をもらって
熱を測る。


熱を測っている間、何気ない
会話をかわした。


順調なら明日にでも退院出来るそうで。





(由香と皐月に会いたいな…。)





てか、今日1日病院生活とか
つまんないよ。



体温計の音がなる。



熱は、平熱の36.5℃。



体温計を見ながら、学校に行きたい
とか思いつつ大きなため息をついた。









***



お昼になると、誰かが
病室に入ってきた。


看護師さんの声を想像していたら
聞こえてきたのは、懐かしい声だった。




「ゆきなー、入るぞー。」




私の目の前に現れたのは、




「拓也さん…。」




てか、私、拓也さん見ると絶対
懐かしく思う…。何で…?




拓也さんは私の隣にある椅子に
座ると、フルーツの皮をナイフで
むきはじめた。




(りんご…。私の好きなやつ…。)




「りんごは雪菜が好きな果物だろ?
…こうやって…うさぎにして食べるの
が好き…だよな?」




器用にりんごの皮をむき、うさぎの
耳を作ってくれた。



「…うん。」



拓也さんの差し出すりんご
を手に取り一口食べる。


口いっぱいにりんごの香りが
広がって幸せな気分になる。




何だろう…、この気持ち…。



拓也さんを見てると、胸が
苦しくなる。


意味なんかないのに泣きたくなるの。


いちいち、ドキドキするんだ。




(この気持ち…知ってるようで…
知らない…。)





あれ…?


夢の男の子がちらつく。


何だっけ…?


名前…。…っくん…。

何か思い出しそう…。
名前が…もう少しで出てくる…。





「雪菜…?」





名前…。名前…。…何だっけ。





「……たっくん……。」





(ん?…たっくんって誰?)




咄嗟に出した懐かしい名前。
どうして、この名前が出てきたか
自分でも分からない…。





「雪菜…?!…俺の事分かるか…?!」



「たっくんって誰…?…私、知らない。」





たっくんって本当に誰…?
もう少しで思い出しそうなのに…。




(何か…頭痛いしくらくらする…。)




ねむ…。



「おい…!…雪菜…!!」



拓也さんが私の名前を呼ぶ声が
どんどん小さくなっていく。




(あれ…?…前にもこんなことが…)



いきなり、頭に飛び込ん
できた記憶の1部。





景色は道路で、自分の血が道路
いっぱいに広がっていて…。

由香と皐月は泣き崩れてて…。



それで、私の名前を呼ぶ男の人…。




「ゆ…な…!!」



雪菜…雪菜って…。




「おい……きな…!!」




私、この人知ってる…。
けど…思い出せない…。


もう1度…私の名前…呼んで欲しいな…





「おい!!…しっかりしろ!!雪菜!!」




咄嗟に我に返り、辺りを見回す。

さっきの光景は全くなく、私の今
見えている光景は、病室で、至近距離
にある拓也さんの顔。





(わ…近い近い近い…!!!!)





「ビックリさせんなよ。いきなり
ふらつくから。ったく。」




「あ、うん…ごめん…」




「雪菜が平気ならそれでいいよ。
俺、仕事あっからもう行くな。
ちゃんと安静にしてろよ。」




「うん…。」






そう言って、私の頭を撫でて
病室から出ていった拓也さん。


撫でられた頭に手を添える。





(心臓がうるさい…。)




心臓はうるさいくらいに
脈打ってて、ドクドクいってる。



どうしちゃったんだろ…私…。


男子は好きじゃないのに、拓也さんとは
普通に話せるし…。

いつもの私なら、平気で無視するし…。


何か無視出来ないんだよね…。
ずっと喋っていたいなとか思っちゃう。





(あー!!もう、私変だ…!!!!)




拓也さんのむいてくれた
うさぎりんごを口いっぱいに
放り込み、布団を被った。





(ほっぺた熱い…)