(雪菜が…部分記憶喪失…。)




雪菜があぁなったのは、俺のせいだ。

鈴とあんな所にいなければ。


そもそも、泣かせるかもとか
悲しませるだとかっつーのが
おかしいよな。


雪菜がどれだけ辛かったか…。




早く、鈴をどうにかしねぇとな。




「俺、雪菜には忘れられたくねぇな…」




そんな小さな独り言は
誰の耳にも届かず、俺は、
雪菜の病室へ向かった。








***




病室へ入ると、雪菜は気持ち
良さそうに寝ていた。




(可愛い…)




頬にかかった長い黒髪をそっと
どけて、頬に手を添えると、何を
勘違いしているのか、俺の手を
頬にすり寄せてきた。






(こういう事したとしても、
雪菜は俺を忘れてるんだよな…。)







「ん…雪ちゃん…くん…と
…ずっと一緒…。」







(寝言?…ずっと一緒?…雪ちゃん…?)





雪菜が自分をあぁ呼ぶのは、
幼い頃だけだ。


ずっと一緒って誰の事だ…?


さっき小さく“くん”って声が聞こえた
ような…。




いや…。
まさかな。
雪菜は俺を忘れてるんだからよ。







まさか、雪菜は夢で幼い頃の俺たち
を見てるんじゃないかって。


確かに、幼い頃俺は、雪菜に
ずっと一緒だねって言ったことがある。


あの記憶を雪菜は夢で見てるんじゃ
ないかって…。






(んなわけねぇよな…。)








「…雪菜。……大好き…。」





耳元で囁いても、眠っている
雪菜は当然聞こえない。



俺の事覚えてたら、雪菜も
大好きって返してくれるんだけどな…



忘れられてるってけっこう辛いのな…





もし…ずっと俺の事を思い出さなかった
ら、そんときは、1からまた築き上げ
ればいい。また振り向かせる。




それより、鈴とババァを
どうにかしねぇと。