「先程のダンスは素晴らしかったわ。」
そう言いながら、私たちに近付いてきた
奥様。気まずそうな社長。
この光景にすごく違和感を覚えた。
「雪菜…。」
心配そうなママは、優しく私の
名前を呼ぶ。
ダンスに必死だった私に、
ママは気づいてたんだね…。
(何か、分からないけど…
泣きたい気分…。)
泣きたい気分とか思っていた時には
既に涙が一筋頬を伝っていて。
自分が泣いてると確信したとき
どんどん涙が溢れてきて…。
もう、人の目なんか気にせずに泣いた。
荒澤財閥の社長さんや奥様何て
関係ないと。この涙が枯れるくらいに
泣いて、スッキリしたい、ただ
それだけだった。
(はは…。何で泣いてんだろ…。)
泣いてる私を、社長さんと奥様は
心配そうな驚いたような様子で。
ママとパパはとにかく
私をなだめてるみたい。
泣いている私なんか
お構いなしというように
とても綺麗な女の人が私達の
前に現れた。
「…拓也?」
その女の人は、たっくんを
知っていた。
「鈴…。」
たっくんの驚いた表情が
その鈴(すず)という女の人に
向けられる。
社長と奥様はその女の人を
温かい目で見ていた。
(どういうこと…?)
分からないことだらけで、
くらくらする。
でも、頭でいろんな事を
考える事が出来ても、疑問に
思ったことを口にする力何てない。
とにかく、この涙を止めなきゃ…。
一向に止まる事のない大粒の涙。
「雪菜…行こう。」
そう言ったたっくんは
私の手を掴んで、ダンスホールから出た。
たっくんの足は、どうやら
自分の部屋の方へと進んでいて。
背中だけしか見えないたっくんの後ろ姿。
今のたっくんはどんな顔を
してるのかな…。
けど、何となく分かる。
だって、今のたっくんの背中は
とても小さくて弱く見えるから…。
きっと、切ないような…
苦しいような…そんな顔してる。