ダンスの基本姿勢をとったとき、
パーティーには用意されていない
音楽が演奏される。
その事に戸惑いながらも、私は
たっくんとダンスを踊る。
「あのばばぁ…試してやがる。」
そんな言葉をボソッと呟くたっくん。
また、たっくんは奥様の事…
そんな風に言って大丈夫かね…?
「雪菜、ちょっと難易度上げる。
わりぃけど、少し手伝ってくれ。」
(え…?!…難易度って…?!)
まさかとは思うけど、ダンスの
事じゃないよね…?
驚きが隠せない私にたっくんは
お構いなしに、どんどん難しい
ステップをしてくる。
それに合わせるのはとても大変で。
そんな様子をまわりの人達は
食い入る様に見ていて、それが
私をよけいに緊張させた。
「雪菜。次は右にターン。…
その次は後ろに下がって。」
頭が真っ白でついていくのも
やっとな私に、たまにたっくんは、
ステップの仕方を耳打ちしてくる。
(何で、たっくんはこんな
難しいダンスを知ってるの…?)
今日のダンスパーティーだけで
私の頭は混乱でいっぱい。
たっくんは私を気づかいながら、
ダンスを踊る。
たっくんは、いつも私の
上を行ってて。
こういう場面が、1番たっくんが
離れていきそうな感じがしちゃう。
いつも上を行くたっくんは、
どんどん前へ進んで、最後は
私を置いていってしまうんじゃないか。
そんな風に思っちゃう。
約束したけど、やっぱりこういうこと
考えちゃう私って…どうなんだろ…
上の空になりながら、ダンスを
踊っていると、いつのまにか
演奏は終了していて。
たっくんとのダンスも終わっていた。
ボケッとする私とは反対に
たっくんは見ていた皆に一礼。
(たっくんを…遠く感じる。)
一礼をするたっくんを見て
なぜか、胸が締め付けられる感じがした。
私とたっくんに近付いてくる
奥様と社長とママとパパ何か
お構いなしに、いきなりたっくんは
私を抱き締めた。
何か、さっきから、頭が真っ白に
なるような出来事ばかりで、
驚くことも声を出すことも出来ない。
「雪菜わりぃ。…無理させて…。」
きっとダンスの事を謝ってるんだ。
…けど、“わりぃ”の意味は
ダンス意外にも何かいろんな意味が
含まれてる感じがした。
そんな言葉を私は、ただ聞いている
だけだった。