「桑田君…?!」
後ろを振り返れば、そこには
手を差し出す桑田君の姿があった。
「桑田君…!!…ダンス出来るの…?!」
「当たり前。俺を何だと思ってるの?」
そう言って、私の手を握ってきた桑田君。
ダンスが出来るなんて…
本当に謎だよね…。
まぁ、出来る人もたくさんいるよね。
「雪菜。踊っちゃいなさいよ…!!」
そうママに耳打ちされ、仕方なく
桑田君の踊ることになった。
「じゃぁ、いくよ。」
それを合図に、私たちは踊り出す。
桑田君のダンスはシンプルだけど
相手を気遣ってるような…そんな
優しいダンス。
基本もバッチリで。
ますます私は、桑田君の事が
分からなくなっていた。
1曲目の音楽が終わり、私たちの
ダンスが終了したとき、何人かの
男性が私を囲んだ。
(え…何…?!)
その光景を目にした、躍り終わった
パパとママは驚いた顔をしていて。
すると、その男性らが口を開いた。
「僕と踊ってください。」
「いや、俺と。」
「俺と踊ってください。」
いきなり、たくさんの男性から
ダンスの申し込みをされて、混乱
しないはずがない。
困っていると、誰かに右手を
引っ張られる感じがした。
思わずよろめいて、その手を
引っ張った相手に体を預ける。
すぐに、その相手を見ると、
…たっくんだった。
たっくんは、男性らに微笑んでいる
様子だけど、機嫌が悪いのがすぐに
伝わってくる。
「男に囲まれてる雪菜見る
のは良い気しねぇな。」
そう耳打ちされた私は、
完全にたっくんが不機嫌
だと確信した。
「申し訳ないのですが、お嬢様に
そのような事をされるのは、止めて
頂きたいです。囲んでダンスの申し込み
とは、やり方が少々間違っておられ
ますね。そうだと思いませんか?」
口調からたっくんの不機嫌さが
伝わってくるよ…。
執事という身だから、ちゃんとした
敬語だけど…。
本当に変な所で完璧主義だよなぁ…。
たっくんの言葉を聞いた、私を
囲んでいた男性らが口々に
「一体君は誰だ。」
「執事のぶんさいで。」
等々たっくんに言う。
それを聞いたたっくんは、
何かがプツンと切れたみたいで。
「てめぇらの会社、ちょっと
危なくなるなぁ?俺には関係ねぇけど。」
男性らにはっきりとそう言った。
(会社…?…危ない…?)
え、どうして…?
たっくんの言った言葉を
私は理解出来なかった。
でも、理解出来ない私とは反対に
男性らはすぐに理解出来たようで。
顔が一瞬にして凍り付いた。
そんな男性らの内の1人が、
「お前…、あ、ああ、荒澤…拓也…。」
え、待って。
どうしてこの人が、たっくんのこと
知ってるの…?
私は、疑問を隠せなかった。
「分かったら、さっさと行け。」
そのたっくんの一言で、あの男性らは
逃げるように、私の前…いや
たっくんの前から消えた。
たっくんは1回溜め息を付いて、
「雪菜。…俺と踊る?」
私にそう言った。
その言葉は、誰かから誘われる
よりも嬉しい事で。
即答で、「はい。」と返事をした。
私たちが踊る時は、もう5曲目で。
でも、踊ろうとしたとき、ある人に
よって音楽の演奏は止められた。
それは…、
荒澤財閥の奥様だった。
それが分かったとき、たっくんは
めんどくさいと言わんばかりに
舌打ちをする。
「拓也…いえ、雪菜ちゃんの執事さん?
…ダンスのご拝見させて頂くわ。」
何で、この奥様はそんな事
言ったのか分からないけど、
たっくんは、
「勝手にしろ。」
何か、言葉の意味を
ちゃんと理解出来たみたい。
てか、口調が…!!
荒澤財閥の奥様だよ…?!
あんな口調で許されるの…?!
でも、奥様はそんなの気にした様子も
なく涼しげな顔をしていた。