あの時。
違うとはっきり言えれば
あの時。
少しでも、異性と付き合えたら
なんて考えなければ

もしも。
あの時の私にそんなことが出来たのであれば。

“ごめん、分からない”
そんな事しかいなかった私に

泣き顔なんて私に見せたことがなかった。
あの頃は優しくて強かったあの子の口から


“…ごめん、別れよう”

泣きそうな顔で、それでも私から目を逸らす事無く言わせることは
なかったのだろうか。

縋る事もせず
頷くことしか出来なかった私を
なぜ
あの子は責めることをしなかったんだろうか



「…寄りを戻すという選択肢はなかったんですか?」



「はい。あれから三年たって、たまたま近所のスーパーであの子を見かけました。あの子は私と付き合ってた頃みたいにボーイッシュではなく、綺麗で、清楚な女の子になっていました。その時あの子も私に気付いて話しかけてきてくれたんです。」


“久しぶりだね”
って。
優しそうな男性と手を繋いで

“私のこと覚えてる?”って


自分の事を俺と言っていた
ボーイッシュで私が好きでたまらなかった
あの子が



三年という月日で、
何もかも変わってしまっていたんだ。



「…それからわたし達は三年前によく行っていたカフェに行きました。他愛のない話をしました。」


“一緒にいた人は置いてっちゃっていいの?”



“あー、先に家に帰ってもらったから平気だよ”


メンズの財布、香水、腕時計がいつの間にか
ブランドの財布、ローズの香水、ブレスレットに変わってしまっていた。