“……私ね。一人っ子なの。”
“え?”
“それでね。もうお父さんたちの事安心させてあげたいんだ。だから……結婚する。”
「そのとき分かりました……ああ。愛してはないんだなって。」
“大丈夫、いつか好きになれる。あの人となら幸せになれる。そう思うんだよ”
「私とじゃ、幸せになれないの?そう言いかけました。でもそんなこと言えませんでした。」
自分から貴方を傷つけておいて
今更寄りを戻したいなんて言えない。
貴方は前に進んでるのに。
男の人と女性として付き合って結婚しようとしてるのに。
私が引き止めたところで。
私が男の子になれるわけでも。
貴方の家族を安心させてあげることも。
私には何一つできない。
“そっかー!!良かったね。いい人に出会えて。安心した!!”
「声は震えていなかっただろうか。上手く見栄をはれてだろうか。あの子に悟られず気付かれず上手く言えたのだろうか。今でも私はあの子が私の見栄に気づいていたかは分からないです。」
“ありがと。じゃあ行くね”
「そう言ってあの子は振り返ることも、立ち止まることもなく歩いていきました。」
ーーー振り返らなくてよかった。
涙でぐしゃぐしゃな私の顔を見たらきっと
貴方は走って駆け寄って慰めてくれるでしょう
それが嫌だったから、
貴方が振り返らなくてよかった
この時はそうおもった