「今から急いだって遅いですよ。みんな、帰っちゃってますって」


車を出しながら蓮のマネージャーの月川が面倒くさそうに言う。
蓮のこの要求さえなければ、今日はこれで終わりのはずだった。
月川とて夕方に帰れるなんて滅多にあるものではない。
せっかくのことなのだ。
でも、だからと言って何かをする予定がある訳でもない。
ただ何となく、いつもより多い時間を贅沢に感じたいのだ。


「大丈夫。まだ残ってるコいるよ。あのさ、あの笑顔に会いたいんだよ」


「え?何ですって?」


バックミラーに映る蓮は首を斜め右に傾けて眠っていた。
疲れているのだろうが、少し微笑んでいるようにも見える。
相変わらず子供っぽい寝顔。


「いやだ。もう寝てるじゃない。どっちが子供なんだか分かんないわね」


月川の口調がプライベートモードのオネェに変わった。