「こ、こんにちは」

 私は門の外側から掛けられた声に、顔を上げた。

「ラベンダー荘の人、ですよね?」

 見れば、おおきな鞄を手に持ったサラリーマン風の男性が立っていた。

「俺、今日からここで―――」

 男が自己紹介をはじめて、わたしはこの人が新しい住居人だと気づく。

「渡辺優子です。聞いてた時間よりも早かったですね。」

「すみません…」

 この人も、いろいろな噂を聞いてここへ来たのだろうか?

 おびえたような顔をした男を見て、わたしが初めてラベンダー荘に来たとき、信也くんが怪しく謎を仄めかした気持ちが少し分かった。

「謎のラベンダー荘へようこそ。」

 いまのわたしも、あのときの信也くんみたいな顔をしてたりして。

 私は門を開けて、男を迎え入れる。

 男は警戒しながら足を進める。

「朝ごはん食べました?まだなら、もうすぐできますから。」

 私はラベンダー荘の玄関に向けて歩き出した。

「あっそれと、うさぎ、嫌いじゃないですよね?」

「うさぎ、ですか?別に、嫌いではないですけど」

「よかった」

 わたしがラベンダー荘の玄関に手をかけた瞬間、中から、はじめて聴く音楽がポロポロと流れてきた。

 どうやらアキラは待ちきれないようだ。

 その歌詞を聴いて私は思う。

(アキラもそろそろ卒業かな)

 私は康孝さんのはがきを大切に胸に抱く。

「あのう、なにかいい事でもあったんですか?」

 私は少し涙ぐみながら、そんな声を背中で受け止めた。

「はいっ」

 そして私は、心のそこから願いながら笑顔で振り返って言った。

「貴方も見つけられるといいですね―――」

 ―――この世界で、生きる力を。