「ところで、優子はなんの担当になったの?」

「担当?」

「あれ?聞いてない?―――信也のやつ、余計なことばっかり言って肝心なこと話してないんだから。部屋に何か植物置いてなかった?それか種とか?」

「植物……そういえば窓のところにサボテンが」

「それだ!ここの住人になると管理人から植物を託されるの。まあ、育てるのも育てないのも自由なんだけど。私はガーベラの種だったんだ。」

 整理された花壇に増えていく花を見ていると、かおりが楽しそうに笑いながら言う。

「もし、やりたかったらフェンス側好きにしていいよ」

「いいの?」

「ぜんぜんいい。あっ、あそこ以外は」

 そう言ったかおりの口調が、一瞬陰った気がする。

 かおりは一番奥の野菜畑の前の土地を、汚れた軍手で指差した。

「あそこはね、ハーブ係りのエリアだからあそこ以外でお願い」

 私は少し歩いてハーブエリアの前に行く。

 確かに、雑草にまぎれて、ところどころにアップルミントやレモンバームの葉が見えている。

 少し離れたところからかおりが声を投げる。

「ミント類が強いことが不幸中の幸いだわ。ハーブ係り、世話する気なんてダニほどもないから。あーあ、またラベンダーのお風呂入りたい」

「私言ってみようかな?」

 かおりの方へ戻りながら言葉を紡ぐ。

「ハーブの世話、してみたいし」

 ついついやるべきことを忘れて、楽しそうなかおりにつられてそんな言葉が出てしまった。

「うーん、あんまり薦めない」

「なんで?」

「難しい子だから」

 さっぱりした雰囲気のかおりからこんな言葉がこぼれるなんてすごく意外だった。

「帰ってくるのはいつも夜中だから、もし会えたら言ってみたら?……よしっ、後はお水。立ってるついでにブリキのじょうろ取ってきてくれる?玄関の脇にあるから」