「信也」

 信也は顔を上げた。

「なんだ、かおりか」

「なんだとは何よ。せっかく絆創膏新しいのあげようと思ったのに」

「……」

 かおりは信也の表情を見ると、しゃがみこんだ。

「ほら、足出して」

 痛みはそれほど感じなかったのだが、最初にかおりが貼ってくれた絆創膏はほとんどはずれ、かかとの皮が剥け、血が靴に染みていた。

 かおりは嫌な顔一つせず、丁寧に新しい絆創膏に取り替える。

(そういえば、かおり。ラベンダー荘を出てってから、感じ変わったな)

 信也はかおりの顔を見つめる。

(前より、さっぱりしたっていうか。キレイに―――)

「かんぺき」

 絆創膏を貼り終えたかおりと目が合う。

(でも、かおりが好きなのは―――)

「かおりちゃん」

 気がつけば康孝がすぐ傍に立っていた。

 信也は康孝を見上げる。

「信也なんか放っておいて、しっかり休みなさい」

「はい」

 かおりは絆創膏のごみをポケットにしまいながら、リュックを置いた場所に戻る。

「信也」

 康孝が信也の隣に腰を下ろす。

「邪魔だったか?」

 余裕綽々の康孝に信也はため息をつく。

「康孝さんっていいよな。いつもそんな風に余裕いっぱいで。」

「余裕は意識して、自分で作るものだ」

「じゃあ俺みたいに、常に考えてるタイプは絶対余裕なんて作れないな」

「信也。悩むなとは言わないが、もっと効率的に悩めないのか?ぐちゃぐちゃした頭で考えてもいい答えは出てこないだろう。俺は余裕がないときこそ、いっぱい歩くようにしている。そうすると無意識に脳が整理されて、いい答えが出やすくなるんだ。この長距離ウォーキングの目的も実はそれだったりする」

 康孝は信也に、にやりを笑う。