登山道へ続く道は整備され、ゆるやかな石段がしばらく続いている。

「こんにちは」

 山から下りてきたらしき老夫婦とすれ違う。

「こんにちはぁ」

 私たちは上を見て、ひたすら階段を上っていく。

「この山の中間にある神社はね、一生に一回だけ願いを叶えてくれるらしいわ」

 かおりは呼吸を整えながら、自分のペースで上っている。

 階段の脇には所狭しと店が軒を連ねている。

 土産屋の店先には木彫りのふくろう。

 特産品店には豆腐やそば。

「醤油のいい匂い」

 手前のせんべい屋が客の前でせんべいを焼いている。

 ひっくりかえして、へらでつぶして、またひっくりかえして。

「遭難したときように買っとくか」

 気づけば信也もアキラも、せんべいに噛り付きそうなぐらい間近で、おじいさんが焼いていくのを見学していた。

「おいおい。目的はせんべいじゃないぞ」

 康孝が私たちの背後に回って、せっつく。

「なぁ康孝さん」

 信也はせんべいに後ろ髪引かれながらも歩き出した。

「俺たち全員が来ると思ってた?」

 康孝は信也の隣に並んで悠々と歩く。

「ああ」

「かおりはだめって言っても行きそうだけど、俺とかアキラとかはさ、こういうのあんまし興味ないじゃん?」

 信也の声が後ろを歩く私たちにも聞こえてくる。

「来ると思ったさ。悩みがあるってことは、それだけ、まじめな証拠だから」

 信也は歩きながら康孝を見上げている。

 後ろから見ると本当の兄弟のようだ。