『優子?優子いまどこにいるの?大丈夫なの?』

 携帯から聞こえてきた声に、私ははっとした。

「ごめんね、携帯出れなくって」

 言葉を返すと、かおりの泣きじゃくる声が聞こえてきた。

『心配したんだから―――もう二度と、声、きけないと思った』

 すすり泣く音が携帯から聞こえる。

「ごめんね、かおり、ごめんね」

『何度かけても、繋がらないんだもん―――優子、そんなこと一回もなかったし、帰ってこないことだってなかったし』

「電波の入らないところにいたの」

 私は真っ暗になった神社の境内に立っていた。

 もう、どうでもよくなっていた。

 探しても見つけられないうさぎ。

 もう二度と人が大切なものを失うところを見たくなかった。

 世界で一番苦しいのは自分だ。

 誰もこの苦しみは理解できない。

 何も考えたくない。

 もう、死にたかった。

『優子が死ぬなら、その前に私が死ぬ』

 かおりの声が私の脳に飛び込んできた。

 私はやっと自分の身体に血がめぐるのを感じる。

 冷たくなった背中を汗が伝う。

 そんなに心配してもらう価値なんて私にはないのに。

 私の苦しみを他人はぜったい理解できない。

 そう、絶対に理解できない。

 そんなのは当たり前だ。

「かおり待って」

 だから、他人ができる精一杯の心配と協力をしてくれるってことは、すごく幸せなことなのかな。

 だってそれが、他人ができる最大限のことだから。

 私は、胸がどんどん温かくなっていくのを感じた。