「なあ」

 信也が電話をしながら、かおりたちを振り向いて言う。

「優子ちゃんの家の電話番号とか、住所って知ってるか?」

 携帯の口を片手で押さえながら信也が真剣にそう聞くが、かおりとアキラは首を振る。

 かおりは何も知らない事実に愕然とする。

「わかりません。……そうですか、……いいえ、すみませんでした。なんとか捜してみます」

 信也はクソっと言いながら携帯を切る。

「携帯番号しか知らないって言ったら、鼻で笑われた」

 信也はいらだたしげに言う。

「どうしたらいいんだ」

 こんなにも住人同士の関係が薄かったなんて。

 自分たちは今まで何をしていたんだ。

「最近、私、優子がぼぉーっとしてる姿を良く見かけてたの。」

 かおりは泣きそうになりながら言う。

「もしかして、死のうなんて考えてないよね」

 かおりの顔がくしゃくしゃになる。

「かおり」

 アキラがかおりを掴む。

「泣くなんてあとでもできる。もしかおりが言うような大変なことになってるんだとしたらなお更、今しかできないことがあるはず。見つけなきゃ、一秒でも早く」

 アキラがまた玄関に向かっていき靴を履きはじめた。

「いっぱい探したのに。もう当てなんてないわ」

 かおりが言う。

 信也もすたすたと玄関に向かう。

「財布は部屋にあったから遠くにはいってないはずだ。後悔しないように、できるだけのことはしよう」

 信也とアキラが玄関に手をかけた瞬間、かおりの携帯が鳴った。

「かかってきた!」

 かおりが必死の形相で着信ボタンを押し、携帯を耳に当てた。