「まさか、この失ったものが見つかるラベンダー荘で失われる者が出るとはな。こりゃ、うわさがまた増えるぞ」

 バイクの鍵をポケットにしまいながら、信也がラベンダー荘に帰ってきた。

 もう時計は深夜0時を回っている。

「冗談言ってる場合じゃないわ。見つからなかったの?」

 かおりは蒼白な顔で、リビングから飛び出してきた。

 その後に続いてアキラも出てくる。

「携帯やっぱり繋がらない。」

 かおりはアキラから手渡された携帯を耳に当てる。



『お客様がおかけになった電話番号は、

 電波の入らないところにあるか、

 電源が切られているため、

 かかりません』



 携帯は、そう無機質に淡々としゃべり続ける。

 かおりは死にそうな顔で息を吐き出す。

「大丈夫だよ」なんて、みんな言葉にはできなかった。

「警察に連絡しよう」

 信也が携帯を取り出して、みんなから離れる。

 アキラはかおりのそばについて、かおりの肩をそっと支える。

 ラベンダー荘に来るものはみな、大きな悩みを抱えてやってくる。

 渡辺優子はまだここに来たばかりで、まだ誰も彼女の失ったものを知らなかった。