「何か飲む?麦茶しかないけど」

「うん」

 青年は冷蔵庫に向かい、麦茶を取り出して二人分のガラスのコップにそそぐ。

「まあ、座って」

 私は青年から麦茶のコップを受け取り、テーブルの脇の木の椅子に座った。

 青年は私の向かいに座りながら、口を開く。


「世間一般に流れているラベンダー荘のうわさは、ほとんどが真実じゃない。うわさ好きの人間が好き勝手に広めたものだ」

 そう機械的にしゃべり終えると、青年はにやりと笑う。

「って、新しく来た人には、説明することになってる」

「どういうこと?」

「おそらくうわさの始まりは、このラベンダー荘に一番最初に入った連中が面白半分でばら撒いたものだと思う。でも―――俺は、絶対なにかあると踏んでる。優子ちゃんだって、うわさを完全には否定してないから、ここに来たんだろ?」

「うん」

 私がうなづくと青年は少し遠い目になって言った。



「失ったものを見つけることができる」



 永遠に話し出さないのかと思っていると、青年は再びを口を開く。

「……ここにはそういう謎のうわさを否定するやつもいるけど、せっかくこの人気のラベンダー荘に入れたんだから、最後まであきらめないで探してみるといいよ。優子ちゃんがどうしてもみつけたいものを」