―――数日後。


 朝から薄い雲が空を覆い、梅雨のしめった空気がラベンダー荘を満たした日。

 私は白いラティスの前に、信也が立っているのを発見した。

「信也くん、雨が降りそうだよ」

 そう言いながら近づいていく。

 視線は信也の足元に自然に吸い寄せられた。

 昨日咲いていた赤紫の朝顔の花が、今はしぼんで落ちて土の上に転がっていた。

「ああ、いま入るよ」

 信也は、ラティスの中ほどで咲く、一輪の大きな朝顔の花を見つめたまま答えた。



 時は止まることなく流れていく。

 明日にはまた別の花が咲くだろう。

 昨日の花より少し赤い今日の朝顔の花は、今にも雨が降りそうなこんな曇り空を見上げても、今日咲くということを誇らしげに微笑んでいるように見えた。

 それはまるで、今を大切に生きる勇気を信也に見せているようだった。