ラベンダー荘の前庭。

 綿毛のタンポポが、ふわふわと風に舞っている。

「アキラも歌ってないで手伝えよ」

 真新しい白いベンチに腰を下ろし、ギターを抱えて歌うアキラの前。

 信也は芝生の上に新聞紙を広げ、園芸用のラティスに刷毛で白いペンキを塗っていた。

 アキラはそ知らぬ顔で、詩の合間に言葉を入れる。

「自分の担当の朝顔のために塗ってるんだろ?人に手伝ってもらうなんてお門違いもはなはだしい」

 塗るそばから、くっついてくるタンポポの綿毛と必死に戦いながら、信也は反論する。

「お前が言うな。アキラが担当だったハーブは優子ちゃんが育ててるだろ!ったく、俺が昨日塗り終えてやっと乾いたベンチに、俺が座る前に座りやがって」

「いいんだよ。これは共有財産だから」

 私は洗ったばかりのイチゴが入ったお皿をベンチに置く。

「なんで信也くん、ベンチから塗ったの?」

 汚れた手の信也に代わって、大きなイチゴを一粒信也の口に入れる。

「―――」

 ほっといてくれ、そう言ったのかもしれないが、もごもごしてよく聞き取れなかった。

「ガキみたい」

「それはお前に一番言われたくない言葉だ」

 すばやくイチゴを飲み込み、信也がアキラにそういった時、門から声が掛けられた。