「私ね、みんなみたいに走ったり、泳いだり、軽く飛び跳ねたり、またできるようになりたかったんだけど、こうやって植物を育ててみて分かったの。植物って実にシンプルに生きてるんだなって。朝が来て、太陽を浴びて、風に揺れながら水と栄養を吸って大きくなっていく。これって一見シンプルに見える生き方だけど、どれが減っても生きられない生命の基本活動。この基本がね、人も同じで、しっかりとできていれば、少し葉がかじられたって、少し踏みつけられたって、生き抜いていけるのよ。そう思ったら、少し自信が出てきたの」

 かおりは一言一言、確実に言葉を出していく。

「私は他人とばかり比べて、できないことにばかり目を向けてた。健康なんて他人と比べるものじゃないのにね。過去の自分よりもできることが増えているならそれでいいのよ。それに、痛くても、できる動きが限られてても、大切なのは私自身がどうやって人生を味わいながら生きていくかってこと」

 私は黙って耳を傾ける。

「逍遥の時はもう終わり。次はもう少し厳しい場所に身をおいてみるつもり。」

 ラベンダー荘の裏庭の一郭を、神秘の別名を持つガーベラでうめた女は、誰よりも現実を見つめ、ありのままを受け入れようとしていた。

「どうしてわざわざ苦しいほうに行くの?」

「せっかく生まれたんだし、少しは使える人間になりたいから」

「使える?」

 かおりは凛とした表情で微笑む。

「地球にとって使える人間に。そうね、まずは自分の周りからやっていこうかな」

 アキラに優しくするとか、なんだかんだ言ってアキラには背中を押してもらってたから、と、かおりは楽しそうに付け加える。

「そんなこといって、まだここに居座る気かよ」

 すると突然頭上から声が降ってきた。