だがそれは彼女に限った事ではない。

僕もどこかこの女性が怖くなっていたのだ。
自分と相容れぬ存在、違う世界に生きる人を高みに置いてしまっていたのかもしれない。

端正な顔立ちをもつ彼女、焼けたパンのようにふくれた顔の僕。
なにか誇りを持てそうな仕事をしている彼女、そして僕…。

「すいません。違う方の免許証だったみたいです。」

そう言葉を残して僕は彼女から去った。不思議そうな顔が今でも印象的だ。
またいつもの扉を開きいつもと変わらない事をやり始める。
見慣れた中年の小太りの男が僕に話し掛ける。

「足立君、一体何してたの?」
「あ、お客さまの忘れ物を届けてました。すいません」

ネームプレートに書いてある名前は誇らしげだった。