さっきまで図書館にいたと思ったら、今は埠頭にいる。高速を少しだけ走った。海と言っても運河の出口、埋め立ての先の四角い海だった。空の下に大きな湾口ブリッジがそびえている。それでも遠くを見渡せば水平線と積乱雲が見えた。

 埠頭に際に車を停めて二人で外へ出た。小島さんは僕に自販機で温かいココアを買ってくれた。彼は自分に買った缶コーヒーを手の中でくるくる放りながら、コンクリの階段を降り、一番下の段差に座った。僕は隣に腰掛けた。日曜なのにほとんど誰もいなかった。

「しばらく誰とも付き合ってないんだよ。なんかもうやんなっちまって。松田が電話してきた時も最初は断った。でもアイツものめり込んでるし、俺の入る隙はねぇんだって思ってよ。久しぶりに刺激だけくれればいいわって。くだらねぇ遊びに付き合ってやるかってさ。そんなのに松田の野郎先に帰りやがって…」

 プシュと缶を開ける音がした。何口か飲んで、小島さんは苦そうな顔をした。

「お前は…ある意味楽なんだわ。だって俺のこと好きにはなんねーだろ。一緒にいて拒否らねぇで、言うことは聞いて、俺のこと好きになんねーの。良いよな。考えてみれば今の俺には一番楽なのかもな…いつか気持ちが萎えたとしたって…お前にはお前をイカせる世界があってさ、そこに居ればいいだけなんだしな。きっと俺と別れるときでも…泣いたりしないだろ…」

 小島さんは缶を握りしめて足の先の岸壁にぶつかる波をじっと見ていた。