「それ以来俺はもう、大人は完全にダメなんだわ」
「そうなんですか」
「ああ。だからお前くらいの年がいい。でもな…」
「なんですか?」
「お前もいつか大人になるんだ」
「ええ、なると思います」
「どんなに好きでも俺の気持ちは変わるんだ、そうなると。ひでぇ話だ。でもそれは仕方ない。萎えるんだ…何もかも。」
「そうだったんですか」
「ああ…まぁ、どうでもいいんだけどな。お前とは付き合ってるわけじゃないしな」

 そう言うと小島さんは少し黙った。何かをためらってるみたいにみえた。言いたくても言えないようななにかを。沈黙の中でそれを押し切るように言葉が放たれた。

「それも…限界なんだわ…もうさ」
「限界…」
「ああ…期限付きの関係ってのがさ」

 ささやくような声だった。自分に聞かせてるような。

「期限って」
「お前だったら、あと2年ぐらいか。それ以上はもうない」
「いつもそうなんですか?」
「ああ。例外は…ないわ。残念ながら」

 フッと小島さんは笑った。呆れたみたいに。

「別れと出会いの繰り返しってやつはさ、そういつも簡単じゃねぇ。お互い苦しいしよ。でも仕方ない。気持ちが続かねぇ。俺だけが夢から覚めたみてぇにさ…」

 不意に小島さんはハンドルを切った。ドアに肩がぶつかった。

「ごめんな。海行こうか海」
「ああ…はい」