30分もしないうちに電話が鳴った。言われたとおりに正面玄関から図書館に面した道路に出ると、小島さんのランドクルーザーが向こう側の車線に停まっていた。近づくと、運転席に小島さんがシートに深く身体を埋めて待っているのが見えた。僕は運転席の窓をコンコンとノックした。小島さんはすぐに気づいて指で“助手席に回れ”的な指示をした。

「おう、元気にしてたか?」
「はい。まあまあです」
「車出すからシートベルトしろよ」
「あ、はい」

 小島さんは路肩からグイッとハンドルを切って、車線に乗った。図書館から先は僕はまだ行ったことのない道だった。走りながら小島さんが口を開いた。

「ここのもう少し先に自衛隊の駐屯地があってさ、知ってる?」
「あ、確かバス停の名前にありましたね。行ったことないですが」
「そこ、前の職場だったんだわ」
「自衛隊ですか?」
「うん、そう。陸自な」

 小島さんのイメージが兵士とか将校だとかの理由がわかった。

「好きで入ったんだけどさ…入隊した早々から上官に可愛がられたのが運の尽きだったわ。先輩の嫉妬がひどくてよ。でまぁ、意味もなく陰でイジメられたんだわ。ムカつく話だろ? でも高卒で入ったから5年は居ようって思って、自分で決めて我慢してよ。整備系の免許いくつか取って限界で辞めた」

 イジメられてる小島さんの姿は想像がつかなかった。

「今は重機の整備と運搬やってるけどな。ほら、クレーンとかショベルカーとか。あの頃に比べれば楽な仕事だわ。ここも運搬でたまに通るんだわ。昔の職場の前通ってるとなんか複雑な気分になるな」

 はぁ、と小島さんはため息をついた。