次の日曜日、僕は午後から佳彦の勤めていない、市の中央図書館にバスで向かっていた。自転車では30分以上掛かるので、バスを使う。停留所を10数個ほど経由すると着く距離にあった。市で一番大きな図書館なので、蔵書は充実していて、以前もたまに利用していたが、佳彦に会わないようにするために、あの日以来、そこに行くことに決めていた。といってもこのところ日曜日になると約束をするので、ほとんど図書館自体に足を運んではいなかった。

 そろそろ図書館に着くというバスの中で、いきなり携帯電話が鳴った。ディスプレイには小島さんの名前があった。

 少しして目的地に着きバスを降り、停留所のベンチに腰掛けて小島さんに折り返し電話した。コール2回ですぐ声が聞こえてきた。

「いたか。なにしてた?」
「すみません。バスに乗っていたんですぐに出れませんでした」
「バス?」
「はい。ちょっと遠い図書館に行こうって思って。もう着きました」
「ああ、忙しそうだな」
「別に忙しくはないです。休みの日にはだいたい図書館にいます」
「勉強するんだろ?」
「いえ。好きな本があったら借りて帰るだけです」
「宿題とかレポートとか作るんじゃねーの?」
「いえ。気に入った本があるかないかです」
「ふぅん、そうか」
「なにか用ですか?」
「用はないけど逢いたいわな」
「そうなんですか」
「ああ、そうだよ。暇なら今から迎えに行くけど、いいか?」
「いいですけど」
「そういうと思ってた。お前今まで断った試しがねぇしな」
「あ、はい。そうですね」
「で、そこどこ?」

 僕は図書館のカードに書いてある住所を読み上げた。

「ああ…そこか」
「知ってるんですか?」
「たまに仕事で通るわ。じゃ、今から行くから。図書館で待ってろよ。着いたら電話するから正面玄関まで出てこいよ」

 僕の休日にまた約束が出来た。