「キッカケではありますが、幸村さんのせいではないです。逆に良くぞ突き止めてくれたっていうか」
「……お前がこんなになるなら、それはダメだ」
「違いますよ。小さい裕は幸村さんのこと、優しいって言ってましたよ。わかってくれたって」
「そんなこと……言わせたのか……俺は…」
「まあ、聞いて下さい。それであのあと、今までにないほどの自暴自棄になりました。どうでも良いって。清水センセに殺されちゃえっても思いました。でも僕、そのあと例の東京の教授先生に電話したんです。これが本題です。だからあの、そういう罪悪感要らないんで、マジで」

 そのことを聞いた幸村さんはいきなり顔を挙げた。

「教授先生って…堺先生じゃなくて、東京の? あの人類学かなんかの大学教授か?」
「ええ、寺岡さんっていう」
「ああ、覚えてるぞ、お前の元カレの小島って人の今の彼氏だよな。殴られて喜んでるドMの」
「よく覚えてますね。そのドMの教授に相談しました。小さい裕が、本当のことが知りたいっていうので、母に僕の出生のこと聞かないとならなくなったので、母から情報を引き出せるのが策士の寺岡さんくらいしか思いつかなくって」
「岡本……お前、SOS出せたのか?」

 幸村さんの目が見開かれていた。ふざけた感じは全て消えていた。初めて聞くような声だった。

「はい。もう、小さい裕が怨霊みたいな声で僕に叫び続けるんです。それでもう耐えられなくなっちゃって。小さい裕が寺岡さんは母と仲が良いし退屈してるからお願いすれば喜んでやってくれるって」
「そんな正確な判断すんのか、小さい裕は」
「そうですね、いつも実も蓋もなく正確です。で、呪詛に耐えられなくなって電話したらつながって。話をしたら、喜んで引き受けてくれて。逆になんか、申し訳ないと言うか……」
「小さい裕の…言う通りにしたんだな…そうか……そうなったんだ……」

 なぜか幸村さんの声がかすれていた。

「ええ、そうですね。で、話の成り行きで寺岡さんに幸村さんのことも話しました」
「まぁ…そうなるか…俺のこと……教授先生に言ったのか…」

 鼻をすする音がする。寒いのかと幸村さんの顔を見ると、右手で目を押さえて俯いていた。まさか泣いてるとか? なんでそんなことに?