「俺は本当にありがたく思ってるんだぜ……お前は迷惑だったかも知れないけど」
「いえ、考えてるのはそこじゃないです」
「あっそう」
「結論から言いますと、お礼を伝えてもらうようにこちらの秋葉様に頼みます。えっと、ご神託の神様に伝わるように、よろしくお願いしますって。ダメですか?」
「まぁ、良いんじゃないの? そんじゃ、二拝二拍手一拝。俺の真似して岡本もやるんだぞ」
「ああ、ええ」
「そこで手を合わせてお礼な」

 二人で手を合わせた。さっき整理した事項を心の中で反復した。そして用件をお願いした秋葉様にもお礼をした。

「終わりました」
「お辞儀しろな」
「あ、そうか」

 最後に一礼して、僕たちは本殿をあとにした。

「今、11時5分前だから、新年の挨拶まで1時間くらい車の中で待つぞ」

 腕時計をチラ見した幸村さんは新年のカウントダウンの宣言をした。寺岡さんの話をするのにいい感じの待ち時間があるな、と僕は思った。どう話そうかなどとという考えはまだ浮かばない。だが、僕がしどろもどろでも話し始めたならば、幸村さんの事情聴取能力でどうにかなるだろう。

「わかりました。えっと、僕もお話があります」
「え? 話し? なになになに? 珍しすぎてなんか怖ぇな!」
「怖くはないです」
「腹減ってない?」
「いえ。別に」
「あっそう。コンビニ行って温かいもん買おうぜ。話はそれからだ」

 コンビニの駐車場に車を止めて幸村さんが寒そうに店内に行って帰ってくると、僕に温かいペットボトルのお茶をくれたあとコーヒーをホルダーに置いて、自分は肉まんを食べ始めた。

「で? 話って?」
「はい、実はこの前、うちに来た幸村さんが帰ってから、あれから本当に煮詰まりまして……えっと、頭がかなりおかしくなる程度には煮詰まりまして…」
「まさか死にたくなったとかじゃないだろうな?」
「思いましたよ」
「バカっ! 死神じゃなくなったのになんでお前が死ぬ必要があるんだ!」
「結局僕は、心の底では誰かの幸せなんか望んじゃいないってわかったし、殺されたいって欲望に塗れた犯罪者製造機なんです。そんな人間いないほうが良いです」
「だぁからよぉ! そんなお前だったとしても良いから生きていて欲しいって皆ぃんな思ってるんだぞ? わかんねーのか、そもそもそこがさ!」
「えーと……ですから、今のは前置きで、ここから前向きな話です。死にたいのは変わりませんが、死にたいとかの話をしたいんじゃないです」

 僕がそう言うと幸村さんは、食べかけの肉まんを持ったまんま、驚いた様子で僕の顔をマジマジと見つめた。

「そんなセリフ、初めて聞いた」
「そうですね。僕もそう思います。あの、小さい裕って覚えてますか?」
「あ? ああ。最近も久々に出てきてたヤツだろ? 人格乖離みたいな」
「今も、ずっと一緒にいます。幸村さんから悪魔って見破られてからずっと」
「待てよ……おい……そしたら岡本、お前……」
「自分が今までしてきたことに押し潰されそうになって、あなたがた二人に一線を越えさせて、その結果が悪魔の所業だなんて……幸村さんに抱かれたあと寝て起きたら、正直、何もかもがどうでもよくなってしまって……」
「煮詰まってるどこの話じゃねぇぞ! お前それは……壊れてる……ってことじゃねぇか…」
「ええ。壊れてます。というか、もうずっと前から壊れっぱなしなんですよ。小さい裕は僕の奥に居て、僕は蓋をして出してあげなかっただけで」
「俺のせいか……」

 そう言いながら幸村さんはハンドルに突っ伏した。食べかけの肉まんは紙包みごとダッシュボードに転がっていた。