「いつぶりだっけ? ほれ、シートベルト」
「ああ、はい」
「あの電話が最後か? 清水さんちで話した」
「そうかもです。強行班の屍体はここんところ無かったし」
「まぁありがたいことに、だけどな」

 予告もなく車が走り出す。どこに行くのだろう?

 駐車場に車が停まると、すぐ前に雪あかりにこんもりとした杜のシルエットが浮かんでいるのが見えた。場所はよくわからない。僕の家から車で10分ほどの距離だった。どこからか川の音がした。幸村さんの後ろから雪を踏みしめて明かりの方に歩いていくと鳥居の手前からテキ屋の出店が並び、境内にはまばらに人がいる。

「秋葉さんだ」

 知り合いの名前を教えてくれるような感じで、幸村さんは神社の名を教えてくれた。

「初めて来ますが」
「俺は放火犯が出ると、ここに来る。ここ、火伏せで有名な神様な」
「ヒブセ、とは?」
「防火の神様ってやつ。おいおい、まず鳥居くぐる時、手前で頭下げろ」

 雪のかかれた参道を歩きながら幸村さんは初めて神社に参拝する僕に作法と知識を披露していく。その息が白い。見上げると久しぶりに雪空ではなく、キンと冷えきった空気の中、雲のない夜空に冬の大三角形と三日月が煌々と光っている。手水という場所で手を洗うんだとかなんとか。センサーで自動で水が出てくるようになっている。神社も進化するものであろう。氷点下の中、氷水のような冷たい水を柄杓で掬い、指先を洗った。凍って管が破裂しないのかと心配になる。

「防火もだけど、厄除けとか開運も良いらしい。岡本にはそっちだな」
「ええ、まぁ…」
「賽銭あるか? 財布持って来てんの?」
「ありますけど……でも、あの、まだ新年になってないんですが。これからここで0時になるまで待つんですか?」
「今日は二年参りって言ってな、大晦日のうちに1年のお礼をして、そのあと年越して1月1日になったら新年の挨拶をするんだ」
「そういうもんなんですか」
「いや、新年明けてから初詣に行くやつの方が圧倒的に多いわな。うちの実家はずっと家族で二年参りしてたから俺はそれが普通」
「僕の実家は初詣をしなかった気がします」
「へぇ、興味ないから忘れてるだけなんじゃないの?」