「……なんだ……わかってたん…ですか」
「だって僕は、あの男に会ってるから…ね。君のこと悪魔って、何度も。話もほんとは支離滅裂で、聞いてるの苦痛だったし。でも幸村さんの話聞いてて、なんかその時のこと思い出しちゃった」
「幸村さん、変だったんですか?」
「変…というか、珍しく動揺してたかな。もちろん、君を傷つけたってことにね。僕が心配で来たのもあるんだろうけど、自分のしたことを吐き出したかったのかな…まぁ僕にしか言えるわけないから良いんだけど。でも、スゴいな、幸村さんは。自分に不利な結論もごまかさないで俯瞰してるよね。そういう意味ではあの卑怯な道化師も頭は良かったんだって分かったよ。同じ結論。でも結果は大違い」
「みんな、もうわかってたって、ことですか……」
「そうだね。でもそれは、当事者もとってもとってもツラいってことも…ね……自分のせいで誰かが狂っていくのを…見てるだけで……止められないのも…さ」

 ああ、それはあなたの実感なのか。見たこともない清水センセの母親が脳裏をよぎった。彼のツラさと自分の罪がかぶって、それをこんなに簡単に共有してもらえるという安堵で、止める間もなく涙がポタポタっと膝の上に落ちた。

「怒り、憤怒っていうか…僕は自分の後ろめたさを感じたくなくて…昨日までは思い出の中の母に怒りだけを感じてた。というか…後ろめたさなんて思い出さなかった。自分が恐れ慄いてたことなんか、思い出せないようにしてた。母に怒られないように媚びて、なにかっていうと抱きついて…抱きついて見上げてにっこり笑って……祟り神の生贄みたいにね。そういう媚態があれを引き起こしたんじゃないかって。あの女にそう言う行為を許したのは」
「先生、幸村さん、聞いてるんじゃ…」
「いい、それはもう。セックスにトラウマがあるって話はしてる」
「あんなに嫌がってたから…」
「うん、イヤだったよ。だって話そうとしたらどっかで思い出してしまうじゃない? あの女が僕にしたこと、それ以上に、僕が無意識に誘ってしまってたからこんなことになったんだって……どっかで怖くて怖くて自分が気持ち悪くて死にそうなのなんか絶対に思い出したくないじゃない!?」

 同じ嫌悪感と同じ恐怖が再びそこに広がっていた。清水センセ、そんなのつらすぎる。小学生の子が、母親から性的虐待を受けながらそんな罪悪感を抱えたら心が壊れて、壊れた瓦礫の山に押し潰されて……死んじゃうよ。
 だからこの人はこんなにおかしくなってしまったんだ。だから。