「清水さん居ないのにスマホが鳴ったからさ、2回も。着信見たら岡本だったから、思わず掛けちまった。いや、だってまた発作がぶり返してたらどうしようって思うじゃね?」
「呼ばれたんですか? それとも…」

 受話器の向こうからバタバタと足音がして、コンコロコンと木の打ち合う音がした。僕の質問に答える間もなく、幸村さんは受話器の後方に話し掛けた。振り向いたのか声が遠くなる。清水さん、岡本から電話来てたぞ。2回、ほら……
 もっと遠くから、えっ? という声がした。あいつ心配するから俺から電話したんだよ…とかなんとか答えている幸村さんの声も聞こえた。スピーカーがなにやらガサゴソ言ったと思ったら、いきなり声がした。

「裕くん!?」

 ようやく清水センセと繋がった。変な経路ではあるが繋がった。本人の声を聞いた途端ヘナヘナと緊張が解け、安堵でベッドに仰向けに倒れた。

「ええ、僕です。すみません。さっき先生のスマホに電話したんです。でも出なくて…出ないといろいろ変に心配になっちゃって。2回電話して。そしたら幸村さんから折り返しが来たんでビックリしました。あの人なんで居るんですか?」
「心配してくれたみたい。顔見に来たって。だから大丈夫だよ。裕くんも心配してくれてたの? 嬉しいな。電話出れなくてゴメンね。今日寒くて、うっかりして薪が足りなくなっちゃって取りに行ってたんだけど、間が悪かったなぁ! それより、大丈夫なの? 幸村さんから聞いたけど……裕くんのほうが僕は心配で…」

 聞いているうちに、状況の有り得なさで笑いそうになってしまった。三人がみな誰かの心配をしていて、その全員がどっか頭がおかしくなりつつあるのに。そしてなぜか笑う口の形になっているのに、そこからうめき声や嗚咽みたいなものしか出てこない気がした。

「話聞いたんですか…」
「聞いた。僕は……なんというか…その……わかってたっていうか…あまり驚きはしないかな」

 言いにくそうに、清水センセはそのことを僕に告げた。