「血なまぐさいことになりかねません」
「あいつはいっそ殴られたほうが良いんじやない?罪と罰だよ。警察に殴られたらちょっとは罪の意識も軽くなるんじゃない?」
「まだ背負ってるんですか…」
「そりゃそうだろ。だって無理心中は未遂でも犯罪だからね。幸村さんはあのバカを逮捕したいくらいなんじゃない? 殺人未遂の時効は25年でしょ。まぁ鬱病でアル中だったって精神鑑定あるから、責任能力が争点になって、無罪まではいかなくても執行猶予は付くかも知れないね。ま、それ以前に未成年に淫行で私たち全員犯罪者だけど」

 その話を聞いて僕はゾッとした。あんな話を警察官にするなんてどうかしていた。どうしよう……こうやって僕の軽率さが人を陥れて、皆を破滅させていくんだ。

「違います。僕はずっと死にたかったんだ……僕がいなかったら小島さんは自殺しようなんて思わなかった! 小島さんは悪くない! 抱かれたのだって僕が…僕が全部、僕の責任なんだ!!」
「君も……まだ背負ってるんだな。親子で罪悪感大事に抱えちゃって。ペアルックにでもする気? “罪悪感”ってプリントしたTシャツでも作って二人で着たら良いじゃん! そんな事件、今更そんな管轄も違う忙しい警部補が捕まえになんか来るかっての!!」

 本気で声を荒げて怒った寺岡さんに、僕は言い返すことは出来なかった。以前なら寺岡さんの意見を突っぱねても自分の言いたいことを押し通していたのに。それで二人でどれだけ言い合いになったことか。だが、今は寺岡さんがそんなことを言ってくれたのを有り難いとすら思えてしまう。

「それに未成年淫行はもう時効だよ。私より詳しいでしょ? ごめんね…ほんと、クズで」
「いえ、いいんです」
「ごめんごめん。余計な心配させたね。だってさ、話の成り行きからして幸村さんは今は、小島君は君にたぶらかされた哀れな生贄って思ってるんでしょ?」
「あ、そうか」
「そうだろうよ。でも生ぬるく同情されて、小島くんのほうが逆切れしちゃったりね。『お前にオレの何がわかる!』とか言って」
「あぁ……ほら、やっぱり平和裏にはいかないですよね」
「まぁ、会わせないほうがいいか……ああ、裕くんの新旧彼氏会わせてみたいなぁ!」

 自分の物見高さをネタに、僕を安心させてくれようとしている寺岡さんに本当に頭が上がらなくなってきた。