「例の、警部補、話ししましたよね? あの人がセックスの後で僕のこと分析して……」
「ちょちょちょっとぉ! ちょっと待て!!」
「なんでしょうか?」
「例の警部補とセックスだってぇ!?」

 今度は寺岡さんは水族館でメスのインド象に告白されたようなひっくり返った声で叫んだ。さっきとのギャップがスゴい。

「はい。彼氏ではないんですが……解剖して起きる発作の始末をしてくれてたゲイの敏腕警部補です」
「いや、ちょっと情報量多すぎて処理落ちしそう」
「僕もです」
「本人がそうなら、私がこうなってもおかしくはないね」
「ええ、安心して下さい」
「ああ、そっかぁ、よかったぁぁ…って安心できるかっての!!」
「まぁ、その気持ちは僕もわかります」
「わかるかよ! ああ、でもよかったぁ……今日は私は学会で福岡のホテルに居るんだよ。呑みにも行かず部屋でゴロゴロしてたから電話取れたし、それより、ここに隆が居なくてホント良かったよ」

 寺岡さんは心底ホッとしたというような感じで現在の事情を教えてくれた。なんという都合の良い状況だろうか。

「あ、そうなんですか。僕も安心しました。この電話のことは小島さんには内緒にして下さいね」
「オーケー、内緒ね」
「前科があるんで信用ないんですが」
「それはあの時説明したでしょう? あんな緊急事態に臨機応変にやれなきゃ君が戻ってこれなかったんだからね!」
「まぁ、そうなんですが……」
「で? いつから抱かれてんの? その警部補。あの人でしょ? 支持されてるとか言ってた」
「はい。その時はまだ抱かれてませんでしたが、もう、1年くらいになるんでしょうか」
「犯されてないだろうね」
「まぁ……ギリ」
「ヤッバいなァ」
「悪いのは僕といえばまぁ、僕なんで。こんな発作持ちなのに法医学者になったわけで」
「自分で処理できてたじゃない? 大学の時とかさ」
「ええ。直面しないように出来ましたから。前の職場も逃げられましたし。でも、今度の教室はちょっと逃げられない状況というか……」
「うんうん。いずれはそーなるよな。わかっちゃいたけど」
「信頼を裏切れなくて。ちゃんとやってるとこ見せないと」
「ああ、そうなったんだ。良かったね。大変だけど」
「ええ。腰を据えて自殺屍体に取り組んだ結果、もう、自分ではどうにもならなくて……その警部補に、まぁ、キッカケがあってバレちゃって。で、バレたついでに告白されまして。それでなし崩しに抱かれまして」

 あの時のリンチをそんな風に抜粋できた自分に感動した。今のところそれほど支離滅裂でもない。それは寺岡さんという聞き手が優秀なのか、とすぐ思い直した。