「ああ、事前に清水さんには了承はされてるから」

 そう言うと幸村さんは自嘲気味に口角を上げた。

「そんなこと……よく許しましたね」
「あの人にとっちゃ、俺は恩人なんだと。まぁ実際俺が居なかったらお前に会って話も出来なかったしな。恩義を返したいって。なんなんだよ」
「今頃、どんな想像してるのかと思うと……なおさら、怖いな」
「お前が許せばの話だ。無理矢理だけはやめてくれって土下座して頼まれたから。まぁ、当たり前だけど。でも……妬かれるだろうけどな」
「したいんですか?」
「当たり前だろ。でもまぁ、お前に任せる。嫌ならこのまま帰る」

 これを選ばなきゃならないのか。どうしたらいいのかなんて僕に決められるわけがない。だけど、僕はもう中学生ではないのだから、無理矢理にでもここで選択しなければ、さっき言ったことが嘘になる、と思った。だが、どうしよう。無言の時間の隙間にワイパーの規則正しい音だけが響く。
 すでに、いつも幸村さんが入れているパーキングに着いていた。入り口の手前で幸村さんは車を止めた。僕は何も言えずに考えていた。期待させないようにするには、ここできっぱり断るのが筋だろう。清水センセにも「抱かれませんでした」と報告できる。しかし……
 幸村さんに言われて意識し始めてから少しずつ勃起が固くなってきていた。股間の痺れも熱もフワッと膨らんでいる。それでもこれなら自慰で済んでしまう程度だった。普通に断れる。だが、もう一方で清水センセを僕に繋いでくれたという事実が、僕の罪悪感に拍車をかける。僕のために見返り無しで、二人で大事なものを賭けて勝負してくれた負い目がある。結局清水センセだけではダメで、この二人の連携プレーで奇跡的に発作も治ったのは間違いない。そして、それ故に今後、僕が幸村さんに抱かれることはもう無いのだろう。それなら、この貢献と成果に報いるために、最後にもう一度抱かれることを選んでも良いのかも知れない。そんな理由で抱かれることを幸村さんが望むならば、だけれど。問題は清水センセは今夜のことをきっと訊いてくるということだ。了承されてるとはいえ、僕が決めたことをパニクらずに理解してくれるだろうか。そしてもうひとつは、これをキッカケに厚かましい幸村さんがなんだかんだと理由をつけて、なし崩し的に関係性をダラダラ続けさせられてしまうことである。「最後にもう一回」を信じられるか否か、だ。