「お互い同情してるほうが楽なんだよ。お前のせいでな」
「すみません」

 そう言って、僕はもらったココアのフタを開け、生ぬるくて甘い液体を喉に流し込んだ。殊勝に謝ったせいか、幸村さんは苦り切った顔でわめいた。

「そうだよ! ただ単にこうなるまでに俺がお前を落とせなかっただけだからよ! ああ、ほんと腹立たしいわ! それもなにもかもお前の死神が原因だぞ。誰にでも抱かれるくせに誰も寄せ付けない! 好きも嫌いも未だにわかんねぇ! 落とせるわけねーだろ! いくら俺でも! もう何でも良いや、お前を理解してる奇特な医者にさっさと生まれた時からの自叙伝語ってくれ! もしかしたら本当にお前の死神妄想も終わらせてくれる可能性あるからな! クソっ!」

 その勢いで、残りのコーヒーを一気に飲み干し、苦々しい顔で黙りこんだ幸村さんは、おもむろにコンビニの駐車場から車を出した。気まずい空気が車に満ちていた。プライドと自信が砕けたことを充分自覚している男が空虚な顔で機嫌を損ねている。僕はこの居た堪れない空気をバネに、無言の幸村さんにずっと言いたかったことを伝えようと思った。こんなザラザラした時間にしかこんなことを言えそうになかった。

「でも、あの、今まで色々と悪態をつきましたが……発作のときにいつも来てくれて……ありがとうございます」

 それを聞いた幸村さんは呆気にとられた顔をした。

「え?」
「僕の発作を……毎回解放してくれて、それには……感謝してます」
「は……?」

 不意を突かれたような顔の幸村さんが僕を横目で見た。口がポカンと開いていた。

「それは感謝してます。とはいえ好きになられても僕にはそれに応えるすべはないし、命を奪ってしまうかも知れないので無視するしかないし、それがほんとに心苦しいのですが」
「それは……俺がそう強要したんだ。逃げずに自殺屍体と向き合えって。だから責任は俺が取るのは、筋合いだ」

 自分に言いきかせるような幸村さんに、僕はずっと思っていることを告げた。降りだした雪がフロントガラスに張り着く。ワイパーが動き始めた。