現実の僕はドクター清水のセーターの襟首を両手で掴んでいた。彼は掴み掛かった僕に構わず、約束通りなにもしないで、画面を注視していた。僕が揺さぶっても彼は無表情のまま揺さぶられながら画面を見ていた。僕の首が佳彦に差し出されていく。仰け反る僕は掴んだ佳彦の手首を僕の喉元に導いていた。

「見るな…!」
「あれ、誘ってるの?」
「見るな!」
「答えてよ」

 僕は手を伸ばしてドクター清水の手にあるリモコンを奪おうとした。だがその手は空を切った。

「ダメだよ」
「どうして!?」

 だが見ていないはずの目の端にそれが映る。仰け反らせた僕の首にゆっくりと佳彦の両手が掛かるのが。その時、耳に嬌声が響いた。

『ああ…あぁ…んはあぁんっ!』

 その瞬間、僕は手の平で耳を塞いでいた。目を閉じ、身体をキツく折り曲げて視界から画面を遮断した。これ以上耐えられない。

「よがってるんでしょ…これって…ねえ…苦しんでるんじゃないんでしょ?」

 ドクター清水の声は蓋した耳の中に響いてきた。

「やめて…」
「教えてよ」

 ドクター清水の声がなぜか震えている。

「ああ…ほら…失神して…イッたよ…射精してる…いっぱい出てる…精液が伝って…ほら、ここで糸を引く…それから唇からよだれが溢れる…もう何百回も見た…全部覚えてる…それでもまた見てしまう」

 僕は耳を塞いで丸まったままソファから滑り落ちていた。力が入らない。床に伏せた僕の頭の上からドクター清水の困惑したような上ずった声が降ってくる。

「君が隣りにいる…裕くんが…きみがほんとに僕のとなりに…」
「や…めろ…やめ…やめ…ろ…」

 うわ言のようにつぶやく僕の塞いだ僕の耳元で、ドクター清水は身体を屈め、低い声で告げた。

「聞いてよ、裕くん。これから意識のない屍体みたいな君があの人にイヤっていうほど犯される…君は気を失ってたから、なにされてたか知らないでしょ? 僕の隣に座って見たら? 大丈夫…何もしないよ。でもこれ初めてでしょ? 君があの人に何されてたかこれからわかるよ。動画まで撮られてたの…今まで君、知らなかったんでしょ?」
「最低…だ…」

 知らなかった。佳彦。あなたはやっぱり最低だ。