「ようやく13年前の話ができる」

 彼はメガネを指で押し上げて位置を直すと、そのテレビに向けて1個目のリモコンのボタンを押した。ようやく、このために彼が僕の隣に移動してきたのだとわかった。正面から映像を観るために、だろう。

「なんで家まで来て欲しかったのか、これからわかるから」

 そして彼は2つ目のリモコンを押した。部屋の明かりがスーッと暗くなった。薄暗い間接照明の中で、替わりに薄型テレビが青い明かりを僕たちに投げかけている。彼はソファにもたれ掛かり、足を組みながら更に3つ目のリモコンをいじっている。その腕が前にスッと伸びたその瞬間、微かな回転音に続いて動画が映った。なにかのDVDなんだろう。何のタイトルもなく、いきなり誰もいないリビングが映しだされた。この部屋ではない。だが僕はこの画面の中の部屋を何故か知っていた。

「ひっ…」

 僕の喉から引き攣った呼吸音がした。呑んだ息が気道で詰まった。ドクター清水の囁く声が隣から聞こえた。

「わかった?」

 息が詰まったまま、唇の震えが止まらない。どうして…という言葉も出せず彼の顔をただ凝視しているうちに、画面の中に人が現れたのが視界の端から見えた。1人目…そして2人目が。

「ほら、僕じゃなくて、画面見てくれないと」
「な…なんなんですか…これ…」

 かすれた声を絞り出した僕の方を向いて、ドクター清水は無表情に答えた。

「わかんないなら黙って見たほうが早いよ」

 大人の男性と、中学生くらいの男子がソファに座っていた。なにか話している。男の顔は画面から見切れてわからなくしてある。声はボソボソとしていてよく聞こえない。なにか話しながら男の子の服が男に脱がされていく。下半身が顕になり、男の子は男にソファに押し倒された。僕は耐え切れずにドクター清水に懇願した。

「やめてください…もういいです…わかりましたから!」
「なにがわかったの?」
「見るな!」

 叫びながら僕はドクター清水に掴みかかった。覚えている…この日のこと…僕はこれからすぐに…

「もうやめてください!」
「見てよ。君が説明を求めたんだから」
「やめて!」
「裕くん…これがすべての始まりだ」

 画面の中の僕は自分から佳彦の腕を掴んでいた。見なくても僕は覚えている。このあと僕が佳彦になにを求めたのかを。