「…いただきます」
「どうぞ! 変なもの入ってないんで、好きなだけ食べてくださいよ。多かったら残して…あ、水でも持ってこようか?」
「ああ…ええ」

 また気持ちの悪い読心術みたいな応対をされた。変なものが入ってなくても既にあなたが変なのだ。水の入ったグラスがテーブルに置かれ、ドクター清水はまた食事に戻った。食べる気も起きなかったが、僕も同じようにスプーンでチャーハンを口に運んだ。特に痺れたり刺したりする異常な味覚は感じられなかった。青酸カリならアーモンド風味だろう。残念ながら僕にはとんとわからないけど。ただしヒ素は無味だ。気が付かないで食べ終わる頃、15~20分以内に腹痛を伴った頭痛や下痢やめまい、痙攣がおこり、30分程度で意識混濁や吐き気・嘔吐が来る。重症のヒ素中毒の場合は全身痙攣や多臓器不全などで死に至る。

 だが毒殺でも僕は悶絶するような苦痛を快楽として感じながら死んでいくのだろうか。首を絞められた時のように痙攣しながら射精するのだろうか。急に頭を占めたその想像に、僕は戸惑った。

「…食べられます?」
「は?」

 毒殺の連想の中でいつの間にか手が止まっていたようだった。

「まだ熱いですか? 先生の分はかなり冷ましたつもりなんだけど」
「いえ。大丈夫です…さすがに食欲起きなくて」
「そうだよね…僕のせいだ。ごめんなさい」

 そういえば佐伯陸はあのとき、そんなことを言いながら僕より食べなかった。ドクター清水はすっかり皿の上のものを平らげて一息ついている。

「はぁ、お腹いっぱいになった。これでひとまず大丈夫です」

 僕は口腔内のチャーハンを水で胃に流し込んでいた。

「ゆっくり食べてね。時間はたっぷりありますから」

 どんな時間がどれだけ残ってるのだろうか? 寝ないつもりか? それとも実はあっさり終わってしまうような他愛もない話なのか。

「そうそう、チャーハンって、元々は古代のインド料理だったんですって。それが中国やトルコやヨーロッパに伝わって、それぞれチャーハンやピラフやパエリアになったって…調べたんですよ。究極のチャーハンが作りたいって思って!」

 食べ物の薀蓄には全く興味がない。僕は一人で話しているドクター清水に相槌も打たずに、黙々とチャーハンを口に運んでいた。

「やっぱりね、モノゴトを突き詰めるにはオリジンっていちばん大事だって思うんですよ。なにがおおもとかって。それがわからなければどうやってそれを構成している物質や動きや性質、外見やデザインにも、そこに意味を見いだせるんだろうって」

 少し話が中断したようだったみたいだった。耳の中で音が途切れた。

「僕にとって、あの人がおおもと…すべての始まりとも言える」

 一瞬だけ静かになったのはそれを言いたかったから、だろう。僕はチャーハンの少し残った皿にスプーンを乗せ、ためらいながらテーブルに置いた。申し訳ないがもう食べられない。

「ごちそうさまでした。残してすみません。今から…聞かせてくれるんですか?」