幸村さんのAiセンター構想参加の可能性という後頭部へのラビットパンチを食らった僕は、その威力に顔も上げられずに思わず、うう、と呻いた。ちなみにラビットパンチの語源は『狩りで捕まえた兎の後頭部を殴って殺す習慣』から来ている。ボクシング用語だが、相手の首の後方を故意に打つ反則技のひとつだ…反則だ!

「…それは初耳でした。幸村警部補がこのプロジェクトに参加するって」
「ああ、いえ、まだ本決まりではないんで。そこは検討中ってことらしいんですけどね。だって幸村主任、強行班の捜査の要でしょ。見てる限りそんなヒマないですよねぇ。分身の術とかクローン人間でも作るつもりなのかなぁ。それとも時間割ける当てでもあるんですかね。ご存知ですか」
「さあ。知りませんが」
「県警に異動って噂、ほんとうなのかなぁ……あれ? 幸村警部補の話、お嫌でしたか?」

 僕がずっとうなだれたままついたため息を逃すこと無く、ドクター清水は意外そうに僕の顔を覗き込んだ。

「いえ、別に」
「…というか、僕、ご迷惑ですか? なんだか全然歓迎されていないみたいですよね」

 アメリカ帰りらしい、率直でフランクなツッコミだ。わかりやすくていい。

「いえ、別に」
「ほらまたそれ」
「はあ。いつも誰にでもこうですけど、なにか問題でも?」
「…変わってるって聞いてたけど…こういうこと言ってたんですかね」
「ええ。おそらく間違いないでしょう。ここのスタッフの誰に今の会話を聞かせても、いつもの岡本だと答えるはずです」
「ならいいんですが。でも、本当に生きてる人に興味がないんですか?」

 一瞬息が止まった。なぜだ。なぜそれを知っているんだ? 誰から聞いたのか? 屍体が大好きなんですか、という質問もそうだ。僕の中核をなすものを、なぜこの初対面の人間が知ってる!?

「なぜ…そう思うんですか…?」

 表面的にはさりげなく言ったつもりだったが、内心は彼からその情報の出処を引き出そうと僕は焦っていた。だから自分から肯定はするまいと。だが自分から聞いたのに、返ってくる回答を聞きたくなかった。すると彼は不思議そうに僕に答えた。

「だって、佐伯君が言ってましたよ。お友達じゃないんですか?」
「へ?」
「ほら、ここの隣の大学の天才数学者。お知り合いでしょ? ほんとこの地域、田舎なのに人材豊富で感動しますよ」

 佐・伯・陸!? 思わぬ名前に僕は一瞬ソファから臀部が浮くほど驚いた。見事なアッパーカットだった。