その日の仕事をようやく終わらせ、フラフラしながらスーパーに寄り、自宅に帰ったのは7時過ぎだった。コートを脱ぎ、荷物を置いたその足で、僕はベッドに吸い込まれるように倒れこんでいた。混乱と絶望感が背中から重石のようにのしかかっていた。

 おとといは苛酷な負荷実験を終えるまもなく、気が狂ったまま幸村さんに暴虐の限りを尽くされ、昨日は朝から荒淫の爪痕を色濃く残し疲弊しきっての半休、後半は菅平さんからいきなりの三連続パンチ。それを引きずっての本日は堺教授からのAiセンター構想参加要請という有無を言わせぬ絨毯爆撃…

 燎原ともいえる3日連続の激しい人災で、僕のCPUは処理能力を遥かに超えハングアップ寸前…いやもうハングアップしてるという状態…いや既に先日ハングアップしてたことを気づいていなかっただけなのでは? とばかりの、到底頭や思考ではどうにもならない様相を呈していた。

 お飾りの代表などと教授は軽く言うが、責任など僕に取れるわけがない。だいたい僕がこれ以上犠牲者を出さないように細心の注意を払い、外界との接触を出来る限り断っているというのに。それにこんなに奇矯な振る舞いしかしない僕を代表とかコミュニケーションとか…ほんとに世間の人はいい加減というか、狂ってるっていうか、どうかしてるんじゃないのか? と僕は打ちのめされ切った最低ラインを超えて、むしろ腹立たしさを感じていた。世間の人間が常識的だなんてもう絶対信じない。非常識なわからずやが一般民間人の振りをして世間様に紛れ込んでいる。だがその比率がオカシイ。

 いや…と、僕は過去を振り返る勢いで、客観的な視座に少しだけ入った。思えば前職場のスタッフの皆さんはわかっていた。僕は明らかに厄介者だった。高校時代も、中学時代も、小学生の時も、僕は教室では幽霊かアスペ扱いだった。問題はここの職場だ。受け入れられていることで僕はなにかとんでもない勘違いをしていたのかも知れない。うちの職場は温厚なフリをした狂人集団か?

 ベッドに突っ伏しながら煮えた頭で色々考えて、僕ははた、とそこに気づいた。…もしかして狂ってるから僕が変だってわからないとか? あり得る。もしかしたらわかってない。そうだ、そうに違いない。本気でオカシイって判ればいいんだろうか。というか、本気でオカシイって本当に思われてないんだろうか!? マジでか!? 僕は自分のその信じがたい推測に戦いた。