「未だにAiについては法医学者とAi推進派とでは足並みが揃っていないのは事実だし、Aiが正しい判断を妨げる場合だってあるって話は君も知ってるだろ? まぁ、Ai診断と司法解剖の一致率はまだ低いって言われてる。でもうちの法医学教室としては、Aiの所見を踏まえた司法解剖もアリじゃないかって思ってる」
「それは僕も同意見です。Aiの得意不得意を把握して取捨選択することで、いいとこ取りの判断が出来るって思いますけど。司法解剖だって死因究明に於いては不完全なんですから。切ってわかることは多いけど、切ったためにわからなくなる側面を、Aiはある程度カバーしてくれるはずなんで」
「そうそう、わかってるじゃな〜い。やっぱり興味あるって言うだけのことはあるよ〜。そのコンセンサスとAiの可能性のためにもだね〜岡本君。ひと肌脱いで下さいよ。絶対面白いって。君が読影出来るようになれば飛躍するよ〜清水君に教えてもらいなよ〜」

 屍体の診断画像の読影。僕にとって得意な分野となるだろう。興味と伸びしろのある分野というその1点が、僕にとっての救いとなってはいるのだが。拒否する余地のない、ある意味“命令”とも言えるその提案に、僕は最後の抵抗を試みた。

「…取り敢えず…一日猶予下さいませんか?」
「答えは一緒ですよ?」
「えっと…今ここで“はい”って言わされたら、なんだか堺先生を恨みそうな気がするんで」
「えええ〜それはないでしょ岡本君〜」
「ですから。言わされた感ではなく、自分で“はい”と言った気になりたいんですよ。わかってもらえます?」
「うん。それならわかるけどね」
「もういいですか。軽くめまいしてきました」
「お〜い、大丈夫かい?」
「さあ」

 ショッキングなことが多すぎて、ストレスで具合が悪くなりそうだ…と、僕は後も見ずに教授室を出ると、スタッフルームに戻り、自分のデスクに突っ伏した。

「あれ? 岡本センセ…朝から死んでる」

 鈴木さんの声が後ろで聞こえた。いいえ、死んでるのは生まれつきですから。