父母は本籍地を自宅の住所地に持ってきていたので、遠くまで行く必要や、他県の役所に郵送してもらう必要もなかった。高校の通学路の、電車で家に帰る3駅前で降りればよかった。駅前開発が進み、駅ビルからの空中の通路で市役所とは最近つながったばかりだ。僕は新しい渡り廊下をたどり、入り口の自動ドアを抜け、市役所のメインフロアに到達した。

 市役所内には図書館のコンシェルジュのような人がいて、僕が申請用紙を探してウロウロしていると声を掛けてきた。僕が用件を告げると、テーブルの上から申請用紙をすぐに取って、僕にくれた。書き方を教えてくれたので、僕はネットで見たように、空欄を埋め始めた。ガイドの人は書き終わったのを見て、機械から整理券を取ってくれて、3番窓口の前で待ってて下さい、と教えてくれた。僕は3番を見つけて、その前のソファに腰掛けて待った。整理券の番号と、窓口のディスプレイに表示された数字は3違っていた。

 あと3人待てば僕の番が来る。待っている間、僕は自分がとてもバカバカしいことをしているような、なんとも無意味な気分になった。なんでここに居るんだろう、別にどうでもいいのに。こんなことを自分からやってることが自分でも信じ難いことだった。以前の自分ならこんなところまで来なかっただろう。

 ただ、雑音を払いたかったといえた。隆が何度も言った両親が本当の親かどうかだとか、母親の変な言動だとか、寺岡さんの聞いた母の話と僕の話の変な符牒とか。なにかあると、そんな話題が不意に現れて、関係者を挑発していく。だからといって映画でもあるまいし、そんなことが現実であろうはずもなく、アスペルガーに似た僕の特殊な性癖をみんなでよってたかって劇的な理由付けをしたいというのが本当のところだろうと、話題に上って考えるそのたびに僕は思った。