「わからないか…いまは」
「あんまりいろんなことがあって…処理が追いつかない」
「うんうん。わかった。また話そう。全部保留だ。まぁ、君がコレ以上私と話したいかどうかってのもあるけど?」
「だって…寺岡さんしか…いまんとこ話せる人いないです。隆にはもう相談できないし。でも、僕の話こそ…寺岡さん聞きたいんですか? 逆に。それに今はもう、母の相談なんてしてくれる必要ないんじゃないんですか? だって僕と関わってたら、寺岡さんが傷つくだけで…」

 その言葉を途中で遮って寺岡さんが答えた。

「聞きたいよ、そりゃ。だって今私、キーパーソンだもん。重要参考人の二人の両方から情報引き出せるの私だけでしょ。それにこんなハンパなとこで連載終わったら、この気持ちどうしてくれんのよ」
「コミックですか僕」
「それに近いよ。君の存在はフィクショナルだからね。それにオカルトでエロで猟奇でしかもミステリーなんて、ドハマりだよ私の趣味にさ。早く続き見たいじゃん。ああ、深刻な話なのに茶化してごめんね」
「構いません…そんなふうに言われたほうが客観的になれます」

 たぶん、僕を気遣ってそんなふうにおちゃらけてくれたんだろうなと思いながら、そのあと僕と寺岡さんは“ではまた”と電話を切った。そのときすでに、隆の一撃すらどこかへふっ飛んでいたほど、寺岡さんと母の話は衝撃的だった。その前の懸案の英語のことなど存在すら忘れ果てられていた。

 ベッドに腰掛けたまま、僕はしばらく動けなかった。認識が全く追いつかない。整理してるそばから崩壊と発見が飛び込んできては、僕の仮説や結論をなぎ倒していく。だが、その混乱してるはずのすべての標識は、一点を指しているような気がした。僕はそれを見なければならないだろう。今の大混乱と情報の錯綜を収拾するには、それしかないと思った。