「ああ、裕君。私」
「あ……はい」
「お母さんからさっきお礼の電話来たよ。なんかすっごく恐縮させちゃってさ。参った」
「…そう…ですか」
「あれ…裕君、君、今日元気ないね」

 寺岡さんは僕の呆然をすぐに見抜いた。

「あ…まあ…はい」
「否定しないんだ」
「隆から…デカいの一発食らっちゃって」
「なにそれ! エローい!」
「あ…電話で言われたんです。心配してるから電話しろって寺岡さんに言われたんで、電話しました」
「なんだ。まぁ、それは良かったけど…デカいの一発って怖いな。なに言われたの?」
「お前はいつも“なにかを壊そうとか殺そうとかって欲望はない”って言うのに、自身の身体にもそれを当てはめたことあるか、って」
「…おお…小島隆…一矢報いたね」
「びっくりです…ほんとにびっくりです」
「で、君の感想は?」
「その通りだって」
「まだ自殺したい?」
「なんか、わからなくなっちゃった」
「へぇ…すごいね。君にそう思わせたのってすごいな」
「…それから小島さんに“お前は自殺が嫌いだろ”って言われました。それで、それは違うって思って、いろいろ考えてたら…僕は松田さんと会うまで自分の身体が生きてることに気が付かなかっただけだった…って…でもなんで死んでいる意識が生きてる肉体と一緒に存在してるのか…僕にはそれがわからない…」
「君のお母さんが、気になること言ったよ、さっき」
「え…なんでですか?」
「あの子、自分が死んでるって言うんです…って。それで一度自殺未遂して。手首切って…そのあと失神するようになっちゃって。だから頸動脈洞が敏感で失神するのって、首吊りのまねでもしたんじゃないか…ってさ」
「母がそんな話までしたんですか?」
「相談に乗るって私が言ったからね。お母さん、その気になったみたい。でもさ、なんで“首吊り”なの? なんでそんな発想出来るの? 君のお母さん」
「わかりません…わからない」

 僕は寺岡さんの話がにわかには信じられなかった。